️戦略的な「自信満々マーケティング」
バニラとの味の差別化は実現した。しかし、それで商品が完成するわけではない。次なる壁は、ザ・ミルクの独自性を、いかに消費者に伝えるかだ。事前の調査で明らかになっていた「バニラ味とミルク味の違いが分からない」という消費者意識を、マーケティングを通じて解きほぐさなければいけない。
このとき、ハーゲンダッツは、繊細なマーケティングコミュニケーションではなく、あえて正面突破を試みる。キーワードは「自信満々」だ。
「『ハーゲンダッツが自信を持ってお届けするミルクアイスクリーム』。それがマーケティングにあたってのコンセプトでした。ハーゲンダッツの美味しさの根幹であるミルクをぜひご賞味くださいと。ややハードルを自分たちであげる面もありましたが、情報が氾濫する今の社会において、自信満々なコミュニケーションは消費者の関心を惹き、『そんなに言うのなら美味しいのだろう』という安心感を与えます。バニラとの差が分からない消費者層に『これは違うな』と思ってもらうためにも、力強いメッセージングが必要だと思いました」
その狙いは、何よりも商品名に表れている。ザ・ミルク。唯一無二の雰囲気を漂わせるには、従来の「リッチミルク」といったネーミングでは決め手に欠けた。これこそがミルク味であり、これこそがハーゲンダッツ。そう消費者に印象付けるための商品名だった。
「絶対に失敗できない商品」だった
さらに、プロモーションでも自信満々を前面に押し出した。TVCMで用いたコピーは「ザ・完成。」。真っ白な雪原で女優の中西希亜良さんがザ・ミルクを口にする映像に、その一言を大写しにした。
従来のハーゲンダッツのTVCMは、ゴージャスな部屋で出演者がアイスクリームを口にするなど「特別なひととき」を強調する内容が多い。この点でも、ザ・ミルクは従来の商品とは一線を画していた。そのほか、メディア向けのリリースや店頭に設置するPOPなどにも「ハーゲンダッツ渾身!」「ミルクアイスクリームの決定版」といったフレーズが並んだ。
しかし、自信は常に不安と背中合わせだ。藤江さんも「『失敗できない』というプレッシャーは尋常ではなかったです」と当時を振り返る。ハーゲンダッツの価値の源泉である生乳を強烈にアピールしたにもかかわらず結果が振るわなければ、大きな痛手を被ることになる。

