ロシアに降り立った中国人女性の戸惑い

初めてのロシア旅行は、入国審査の長い列から始まった。

中国文化専門英字誌のワールド・オブ・チャイニーズは、中国人女性チャン・ユートンさんの体験談を伝えている。

チャンさんが空港に降り立つと、行列はいっこうに進まない。見回せば、案内表示はすべてロシア語のキリル文字。手にしたSIMカードが現地で使えるのかもわからず、事前に手配したはずの運転手と連絡が取れる保証もなく心細い思いをしたという。ロシアではウクライナのドローン攻撃対策として、外国の通信事業者のSIMカードを対象に、データ通信とSMSをロシアの通信網に接続してから24時間無効化している。

支払いでも洗礼を受けた。国際制裁の影響でクレジットカードはVisaもMastercardも使えず、旅行者は何を買うにも現金に頼るほかない。チャンさんは出発前、北京で両替を済ませていた。ところが渡されたのは、最高額面の5000ルーブル(約1万500円。7月16日現在のレート、1ルーブル2.09円で換算、以下同)札ばかり。到着後、運転手が選んだ路上のレストランで5000ルーブル札を差し出すと、高額紙幣の受け取りを断られた。

観光地のバイカル湖畔では、旧ソ連時代に設計され、観光用に改造された「ブハンカ」と呼ばれるバンに乗り込んだ。パンの塊を思わせる無骨な外見が名前の由来だ。頑丈さが売りの車両だったが、彼女の席のシートベルトは壊れていた。彼女は危険な状態で悪路を「一日中揺さぶられ続けた」と振り返る。

安く旅行できるのは「密輸」のおかげ

航空券込みで8万円台という異様に安いツアーには、当然からくりがある。メデューザは、ロシアの旅行会社経営者がフォーブス・ロシアに語った、中国系業者の手口を伝えている。

「旅行者を物流チェーンとして使っているんです」と、この経営者は言う。

観光客にタブレットやスマートフォンなどの電子機器を持ち込ませ、ロシア国内で転売する。その利益でツアーの収益を補う仕組みだ。正規の通関を経ずに持ち込む以上、れっきとした密輸にあたる。観光客は知らぬ間に運び屋として、犯罪の片棒を担がされている。

Huaweiのスマートフォン
写真=iStock.com/Roman Arbuzov
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からくりはもうひとつある。格安ツアーには「オプショナルツアー」の名目で土産物店巡りが組み込まれ、1人あたり平均2000ドル(約32万4000円。7月16日現在のレート、1ドル162.09円で換算)もの追加費用が発生する。8万円台だったはずの旅費は、最終的にその数倍に膨らむ。

こうした手口が使われているのは、中国の旅行者の間に「ツアーは安いもの」という根強い先入観があるためだ。

ロシアでの旅行の実費は1週間で約3万元(約71万8000円)だが、ロシアの旅行会社がこの適正価格を提示しても、中国人旅行者に「高すぎる」と断られる。

正規の値段ではツアーが成り立たない。そこで、表向きの代金を極端に抑え、不足分は密輸と土産物店への誘導で穴埋めする。そうした不正が横行するようになった。