頭取からの電話を無視する名物上司
かつて筆者が所属した都市銀行に長谷川さんという、必ず業績を上げる支店長がいた。この人は副頭取まで昇進したが、相当ユニークで、「一日支店長」という制度を自分で勝手につくって運用したりしていた。これは支店長と部下の行員が一日だけ仕事を入れ替わるというもので、たとえば長谷川氏が支店の営業フロアーの隅で一日金勘定ばかりをやる資金係を務め、本来の資金係の若い女性行員が、営業フロアーの扇の要の位置の大きな支店長席で、融資案件の決裁や営業マンの日報チェックなど、本当に支店長の仕事をやるというものだ。
たまに本店の頭取から電話がかかってくると、支店長席にすわった女性行員が慌てて受話器の送話口を手で押さえ、「しっ、支店長さーん、とっ、頭取からお電話が入ってますー!」と呼んだりするが、資金係の席の長谷川氏は「今日は、あなたが支店長なんだから、あなたが答えなさい」と返事をする。女子行員が困って「あっ、あのっ、頭取、今、支店長さんにお話ししたんですけど……支店長さんは、今日はわたしが支店長なので、わたしがお話しするようにと……」と必死になって説明をする。頭取は「はぁーん、なにいってるのかね⁉ 長谷川は、そこにいるんだろ? すぐに電話に出るようにいいなさい」と苛々した口調でいい、女性行員はすがるような眼差しで「あっ、あのっ、支店長さん、とっ、頭取が……」というと、長谷川氏は返事もせず、人差し指で彼女を指さす。あなたが答えなさいという意味である。かくして頭取は立腹して電話を切ってしまうが、長谷川氏は涼しい顔で、札や硬貨を数えたり、手元の出納用紙にボールペンで金額を記入したりしていたという。
長谷川氏がATM(現金自動預け払い機)の係を一日やったときは、一台一台ATMを磨きながら「あなたはよく仕事をしてくれるねえ。お神酒でもかけてあげようかねえ」と入出金量の多いATMに話しかけていたという。
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