よかれと思って分配してきた「12兆円」の罪

地方交付税の仕組みを見よう。地方の税収が増えると交付税が減額され、増収分のうち地方の手元に残るのは25%に過ぎない。東京は増収分を100%享受できる。日本経済が成長するほど格差が拡大する「逆進的メカニズム」が制度に内蔵されている。企業経営で言えば、売上が増えても利益の75%を本社に吸い上げられる子会社と同じ構図だ。そういうインセンティブ設計の下で、子会社が自ら稼ごうとする意欲を持てるはずがない。

さらに深刻なのは「財源の質」の問題だ。補填型の財政移転は「不足を埋める」ことはできても、「新しい産業・価値を生み出す」ことはできない。川上から水を送り続けても、川下が自ら水を湧かせる力を持てなければ、蛇口を閉じた瞬間に干上がる。独自施策に使える財源は東京が1人当たり28万1000円、他自治体平均が7万8000円。3倍超の差がある。

しかし最大の問題は数字ではない。「分配国家」の思想そのものが、日本の成長を阻んでいることだ。分配は結果を調整する。成長は原因を変える。結果の調整に20年と12兆6000億円をかけながら、原因の変革を怠ってきた。その代償が、今日の一極集中の固定化だ。

税の再配分ではなく、成長機会の再配分へ。これがこの問題の本質的な問い直しだ。

リモートワークでは無理でも、AIなら変わる

なぜコロナ禍のリモートワーク普及でさえ、東京一極集中を是正できなかったのか。

答えは明快だ。リモートワークは「働く場所」の制約を緩めたが、「価値が生まれる場所」の構造を変えなかった。意思決定・情報・ネットワーク・機会――これらは依然として東京に固定されていた。場所を選ばない働き方が実現しても、価値創造の文脈は東京にあり続けた。

しかしAI、とりわけフィジカルAI(現実世界の物理的プロセスに知性を実装する技術)の台頭は、「東京に集まる理由」そのものを変えようとしている。

これまで集積の核心にあったのは「情報と知識の近接性」だった。本社・取引先・規制当局・優秀な人材が物理的に近い場所にあることが、意思決定の速度と精度を高めた。しかしフィジカルAIは、高度な知性を物理的な現場に実装する。知性が「中央」から「現場」へ分散する時代が来る。意思決定の知性がAIによって現場に宿るなら、本社機能の東京集中は必然ではなくなる。情報の非対称性がAIによって解消されるなら、東京との物理的近接性のプレミアムは低下する。

AIは東京一極集中を「終わらせる」のではない。東京に集まることの合理性の中身を変える。どこに「知性」があるかが、どこに「人と企業が集まるか」を決める時代へ――その転換点に、日本は立っている。

さらに見落とされている逆説がある。AIによる恩恵が最初に、かつ最も大きく必要とされるのはどこか。それは東京のホワイトカラー職場ではなく、人手不足と人口減少が最も深刻な地方の産業現場だ。地方はAI後進地域で終わる必要はない。むしろ構造的必然として、フィジカルAI先進地域になり得る。

田んぼと山がある田舎の風景
写真=iStock.com/pukamahalo
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