当たり前と思うことでも、視点を変えると違う側面が発見できたり、別の選択肢が生まれたりするものだ。不幸に対するスタンスも同様。もしリストラに遭ったなら、その事実を他人のことのように客観視してみるといい。すると、その不幸は小さいものに感じられ、新たな人生を切り開くチャンスとも捉えられるはずだ。このようにものの見方に広い選択肢を持てれば可能性は広がる。結果として、幸福に近づくことになるわけだ。
ところで、冒頭でニーチェの哲学は、明るく前向きだと書いた。事実、彼は「昨日と違う自分、新しい自分を毎日創造して、クリエーティブに生きよう」というようなことを書いている。ただし、その目的は潔さや人を赦せる心など、要するに人間性を高めることにあった。
現代社会は成果主義、評価主義が蔓延している。雇用側もそうなら、働き手も労働に見合った給料や評価を受けないと満足しない。おまけに、誰が部長になったとか、次期社長は誰だとか、さまざまな人事の噂も飛び交う。そうしたことに振り回され、心配するのは意味のないことだ。その時間があるなら、自分の人間性を高めたほうが遥かに面白く、幸福を呼び込む力にもなる。
では、人間性を高めるためには、どうしたらいいのか。それには頭で生き方を考えるのでなく、「とにかく今を精一杯生きることだ」とニーチェは説いている。その生きた道が人生になり、幸福とはそこについてくるものなのである。
「幸福のことばかり考える人生ほど不幸なものはない」。ニーチェがこの場にいたならそう言ったに違いない。
※出典:『超訳 ニーチェの言葉』(白取春彦編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
(上島寿子=構成 PPS=写真)