握りつぶされた“報告書の中身”
カショギ記者が領事館を訪れる時間に合わせ、ムハンマド皇太子の警護官たちがサウジから到着し、領事館に入っていました。これは、事件後、トルコが防犯カメラを分析して明らかになりました。カショギ記者は以前にも領事館で手続きをしようとしたのですが、この日に来るように指示されていたそうです。この日、待ち伏せされていたのです。
これだけ証拠が揃っていたのですから、サウジアラビアは、警護官たちが殺害に加わっていたことを認め、「彼らを逮捕した」と発表しました。ムハンマド皇太子は関与してはいないと発表しましたが、絶対的な権力を持っている皇太子の警護官が、勝手な行動を取れるとは思えませんでした。
その後2021年2月、アメリカの国家情報長官室は、カショギ氏殺害事件について、ムハンマド皇太子が「カショギ氏を拘束もしくは殺害する作戦を承認した」とする報告書を公表しました。
実は、この報告書はトランプ政権時代にまとめられていましたが、トランプ前大統領は報告を差し止めていました。バイデン大統領になってから、公表に踏み切ったのです。サウジアラビア政府は、この報告書の内容を全面的に否定。事件は個人の犯行だとして皇太子の責任を認めていません。
「人権より石油の方が大事」という批判
アメリカのバイデン政権は、この報告書に基づいて、サウジの情報機関の副長官や皇太子の警備隊の特殊部隊の責任者に対する制裁を発表しましたが、皇太子の責任には言及しませんでした。
トランプ前大統領は、そもそも報告書を握りつぶしましたが、人権重視を標榜しているバイデン政権としては、報告書を公表せざるを得ませんでした。それでも皇太子は別格だったのです。
アメリカに大量に石油を売ってくれて、得たドルでアメリカの兵器を大量に買ってくれるサウジアラビア。そんな関係にあるサウジの実質的なトップを敵に回したくはなかったのです。
しかし、このバイデンの対応を、ムハンマド皇太子は恨んでいたことが、2022年になってわかります。石油をめぐってしっぺ返しをしたのです。
この年の11月、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことで、石油価格が高騰。アメリカでは物価が上昇し、11月の中間選挙を前に国内でバイデン政権は無力だという批判が出ていました。そこでバイデン大統領は7月に恥を忍んでサウジアラビアを訪問。ムハンマド皇太子に石油の増産を頼んだのです。
バイデン大統領は、カショギ記者殺害の責任追及を棚上げしてまで、ムハンマド皇太子に膝を屈し、石油増産を頼んだのです。これにはアメリカ国内で、「人権より石油の方が大事なのか」という批判も出ていました。

