「こいつらの言う通りにしよう」
翌日、運転手役を含めて再結集した6人の実行役たちは、被害者宅付近で待機していた。すると、石栗と電話をつないでいた「キム」から、スピーカーフォンに切り替えるように指示が飛んだ。「キム」の口からはこんな言葉がかけられた。
「1人1人が主役だと思って頑張ってください」
実行役たちへの発破だった。しかし、石栗は「あー発破をかけているな、というくらいしか感じませんでした。テンションが上がるとかはなかったです」と当時の心境を述べている。
犯行はわずか7分で完結した。16時頃、石栗がインターホンを押し、出てきた女性をハサミで脅す。口元をガムテープで塞ぎ、声を出せないようにした。「殺すぞ」とドスを利かせながら、車で待機中の実行役たちに手招きをして突撃の合図を送る。突入してきた実行役の1人が家にいた別の男性をヘッドロックで拘束し、身体を押さえつけた。観念した男性は、「落ち着いて」「こいつらの言う通りにしよう」と抵抗する家人をなだめていた。
指示に逆らい、金庫ごと盗み出す
そして、葛岡が家中を探しまわり、2つの金庫を探しあてる。
この間、実行役と指示役はテレグラム上で通話を繋いだままの状態だった。葛岡が「ルフィ」に金庫を見つけたことを報告すると、「(金庫を)2階から落とせ」などと指示が飛ぶ。
しかし、効率的とは思えず無視して手で車に持ち運んだ。実行役たちは車に駆け戻り、近くに停車していた逃走車に金庫を移し、ひたすら北上した。
「ボーナスやるからな」
興奮を隠せない「ルフィ」は、電話越しに労いの言葉をかけた。
「早く金庫の中身を確認してほしい」
「ルフィ」と「キム」からは、逃走中もそんなメッセージが届いた。茨城県に入り、人気が少ない田園地帯で車を停車。そこで事前に用意したバールとハンマーを用いて、金庫を開ける。指示役の2人とはビデオ通話を繋いだまま、カネと金庫の中身を確認する。組織の中ではこの行為を「計数」と呼んだ。計数が終わると、金庫は付近の川に放棄した。奪ったのは3500万円の現金に、金塊や貴金属、高級ブランド品だった。
3500万のうち実行犯は175万円
「強盗で奪ったうち、1350万円を確保してください」
そんな指示が「キム」から石栗に送られた。稲城事件の実行役として中心的な役割を担った石栗の取り分は175万円であった。
しばらくすると、真っ赤な「プリウス」が付近に停車した。「キム」の遣いだというハーフの男は石栗たちを一瞥すると、名前を名乗ることもなく慣れた手つきで残りのカネを確認し、すべてを持ち去った。
渡邉グループへの報酬は1300万円ほどとされる。「より多く実行役をリクルートした」という理由で、今村よりも150万円多かった。港区のカジノ業者に現金が渡り、渡邉のカジノ口座には経費や手数料などを差し引いた約600万円が振り込まれた。
本件に関わった実行役は7人。いずれも強盗致傷などの容疑でのちに逮捕されている。



