死亡率30%の実態は
もう一つ、私の目を引いたのは、死の理由である。死因の中で最も多かったのは、31.7%、46人を数えた回帰熱だった。日本ではなじみがない病気である。私もモンゴル抑留を調べるまでこの病名を聞いたことがなかったが、肺結核の37人や栄養失調症の21人を上回り、回帰熱がもたらす黄疸が死因とされたものも13人いた。
回帰熱は虱やマダニにかまれることで感染する。アフリカや中東、中南米などで患者の発生が報告されているが、日本国内では2011年以降に北海道でマダニによって感染した患者が2人確認された以外はここ数十年、発生はない。
初期の段階で適切な抗生物質を投与すれば、数日で劇的な症状の改善が見込める病気だと、今の日本では位置づけられている。
発熱期と無熱期を数回繰り返すのが特徴で、発熱期は頭痛、関節痛、咳を伴う発熱、悪寒がみられる。髄膜炎、結膜炎、肝臓や脾臓の腫大、黄疸が現れることもある。
抗菌薬の投与による治療が有効とされるが、国立感染症研究所のウェブサイトなどによると、治療を行わない場合の致死率は病原体の種類や健康状態によっては30%にもなるとされている。
捕虜の間で伝染病が広がった理由
予防は虱やダニに接触しないことが一番で、収容所の不衛生な環境の中で虱が増えたのが蔓延の原因だった。私はてっきりモンゴルの風土病かと思っていたが、現地の人に聞くとあまり聞かない病気だという。
ただ抑留とは関係ないものの、かつて監獄のモンゴル人の受刑者の間で広がったことがあるといい、「不潔病」だったことは間違いない。
スフバートル収容所の不潔な環境については、モンゴル厚生省国家衛生監査部指導員が行った以下の調査報告が国立中央公文書館に残っている。
スフバートル輸出基地(モンゴル当局は収容所をこう呼んだ)の捕虜住宅は狭く、非常に汚い。ストーブも修理せず、暖房はなく、日当たりも悪い。洗面所もなく、トイレは修理も新設もされず、汚水を捨てる穴もない。
食堂がないので、捕虜はベッドで食事し、調理場は非常に狭く、暗く、汚い。医療の場も隔離室も洗濯場もない。捕虜は勝手に自分の服を洗い、ベッドの上に吊しており、下着もない。
スフバートル市の医師や厚生省の責任者らが何度も要請したが、基地の責任者は改善せず、捕虜は最低の生活をしている。これが捕虜の間で伝染病が広がった一因である。
モンゴル当局も認めるほど、劣悪な収容所だったのである。

