「当日仕上げ」は当たり前のことではない

多くの人が知らないのが、クリーニング業界の分業体制だ。町のクリーニング店の多くは受付と受け渡しを行う「取次店」で、実際の洗浄は「工場」と呼ばれる専門施設で行われる。当日仕上げを実現するには、午前中に受け付けた衣類を昼前に工場へ搬送し、午後に一気に処理して夕方に店舗へ戻す必要がある。受付から工場、そして店舗への返却まで、各工程の緻密な連携が欠かせない。

多くの店では、当日や翌日の特急仕上げに通常より30~50%の追加料金がかかる。こうした料金体系の背景には、配送、工場の稼働、人員シフトなどを含む全体設計の難しさがある。そうした中で、業界の慣習を超えて「当日仕上げ無料」を実現している店もある。無料で提供するためには、善意だけではなく、受付・配送・工場の全工程をスムーズに接続し、無駄を徹底的に排除したオペレーション設計と精緻な運営能力が求められる。

クリーニング店で衣類の染み抜きをするスタッフ
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クリーニング店は約30年で半分以下に減っている

クリーニング業界は、静かな変革期を迎えている。厚労省が発表している「衛生行政報告例」によると、全国のクリーニング店舗数は、ピーク時の1997年度約16万4000店から、2024年度には約6万7000店まで減少している。少子高齢化、形状記憶シャツの普及、洗濯機や洗剤の高性能化による自宅洗いの浸透、ファストファッションによる「使い捨て」意識の高まり、さらに近年のドライ資材や燃油コストの高騰などが背景にある。

一方で、スマートフォンで集荷・配達を依頼できる宅配クリーニングサービスなど、新しい業態も生まれている。共働き世帯にとっては家事負担を減らせる手段として、高齢者層にとっては外出の負担を減らせる手段として、利用が広がりつつある。ただしプロの視点からすると、「衣類の状態をその場で確認できない」という課題がある。シミの場所や性質をオンラインでやり取りするため情報の精度が落ちやすく、難しいシミ抜きや特殊素材は、対面で相談できる地元の信頼できる店に任せるほうが確実だ。

業界の縮小が進む中、「質の高いクリーニング店が近所にある」という環境は、これから少しずつ失われていく可能性がある。今のうちに信頼できる店を見つけ、関係を作っておくことの価値は、今後さらに高まっていくだろう。