3タイプの水素燃料それぞれに欠点はある

さて、残るタイプはあとひとつとなった。

3つめのグリーン水素はカーボンニュートラルな水素だ。この水素は再生可能資源を使って(風力または太陽光から得られるエネルギーが望ましい)、水を構成要素に電気分解して生成される。

水素と酸素を反応させて電気を起こす燃料電池を、船に搭載する技術はすでに存在する。

その電池で生成された熱と電気エネルギーで、船を動かすのだ。発電時の音は静かで、船の大きさに合わせて電池のサイズを大きくすることもできる。

ただし、水素のエネルギー密度は従来の船舶燃料より低いため、大量の水素ガスとかなりの大きさの電池を搭載することになり、そのぶん積み荷を減らさなければならない。

つまり、長距離の航海には向かないということだ。水素燃料の研究は、この燃料で動くフェリーを使い、比較的短い距離を航行させる実験を中心に進められている。

いずれにせよ、再生可能エネルギーが依然として不足していることはすでに見てきたとおりであり、グリーン水素の生成は高くつき、輸送業に変化を起こせるだけの量は生産できないというのが実情だ。

それに加えて、水素燃料が実用化されたらされたで、それに対応するための船の改造費や、燃料補給のために立ち寄る港を増やすためのコストが、海運企業にのしかかってくることは避けられない。

3つのタイプの水素燃料にはそれぞれ欠点がある。欠点がわかっているからこそ、エクソンモービルのダレン・ウッズCEOは次のように発言した。

「現存する石油の代替品は、エネルギー密度、規模、輸送性、供給性をはじめ、何といっても価格の面で、広く普及するレベルに達していない」

この事実は、海運業や航空業などで環境対策の導入が遅れ、環境を汚す煙を排出し続けている一因としても当てはまる。

次世代燃料で「ゴールドラッシュ」は叶うか

世界最大の産油国のひとつとして知られるサウジアラビアでは、化石燃料の時代が過ぎても、世界最大のエネルギー輸出国であり続けようという野心があり、アメリカのガス会社や海外資本の支援を得て、巨大なグリーン水素工場が建設されている。

グリーン水素は、風力または太陽光を利用して生成されるのが望ましいとされているのだから、太陽光が確実に降り注ぐ、サウジアラビアの砂漠の片隅ほど工場の建設に適した場所はほかにない。

サウジアラビアは、20世紀に産業の車輪を回し続けたように、21世紀では世界の明かりを灯し続けて収入を得たいと考えているのだ。

グリーン水素はエネルギー・トランジションにおける「聖杯」とみなされるようになったが、まだ開発途上にある。それでも大量生産に向けた基礎固めが進められようとするなかで、その実行を促す(潤沢な)資金がサウジアラビアにはある。

だが、サウジアラビアをはじめとする、グリーン水素に投資する投資家たちは、賭けに出ているようなものだ。基礎固めが間に合えばいいが、水素より安くて利便性の高い代替燃料に市場を独占される可能性も十分にある。

いずれにせよ、投資の恩恵を受けるのは何年も先になるだろう。

ダーシーニ・デイヴィッド『グリーンエコノミー 世界の環境を取り巻く本当の仕組み』(かんき出版)
ダーシーニ・デイヴィッド『グリーンエコノミー 世界の環境を取り巻く本当の仕組み』(かんき出版)

グリーン水素の賭けに出たのはサウジアラビアだけではない。カナダ、アイスランド、オーストラリアをはじめとする多くの国々もまた、水素版「ゴールドラッシュ」の機会をとらえて次世代燃料の中心的な担い手になるべく動き出している。

化石燃料からの脱却はまだ遠い先のことのように感じるかもしれないが、ほんの少し前までは、「クリックひとつで商品が届くライフスタイル」についても同じように感じていたのではないか。

20年後になっても、インターネットの買い物は中東から送られたエネルギーによって賄われているかもしれないが、そのエネルギーが20年前よりクリーンな資源で生成されていれば、少しは罪悪感が軽減されるというものだ。

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