恵方巻が広がった本当の理由

「オーナーさんたちには“従業員全員参加型の経営”を実感してほしかったんです。そのためにはまず接客です。『いらっしゃいませ、今日はいい天気ですね』という挨拶も大事ですが、やっぱり商品を通じてお客様と会話してほしいじゃないですか。恵方巻は当時200円ほど。気軽におすすめできます。従業員が試食して、『これ美味しいですよ。こんなイベントがあるんですよ』とお客様に伝える。お客様は『知らなかったよ』と応えて会話が生まれます」

売り上げの低い広島地区のオーナーたちに成功体験を持ってほしい。それが野田氏が恵方巻にこだわった最大の理由の一つである。しかし、それだけではなく、マーケティング、オーナーの意識改革、従業員教育など、さまざまな要素を内包した取り組みだったということだ。関西の風習にすぎなかった恵方巻が、いまや全国で知らない人はいないほどに広がった。その背景に野田氏の熱い想いと実践があったことをあらためて強調しておきたい。

さらに実践の過程で経験したエピソードを聞かせてくれた。

野田靜真氏。アメリカと日本両方で副社長を勤めた。
撮影=プレジデントオンライン編集部
野田靜真氏。恵方巻を全国に広めた。

ライバル店に「一緒にやりませんか」

「当時、担当店の隣には回転寿司のチェーン店がありました。僕はそこの店長と仲が良かったんです。定期的に食べに行ったり、釣銭の貸し借りをしたり、お互いに助け合う関係でした。あるとき僕から切り出したんです。『セブン‐イレブンで恵方巻をやっているんだけど、本来はあなたのところがやるべきじゃないの?』と。回転寿司の店長は『そりゃそうだね!』と感心した様子でした」

後日、その店長は回転寿司チェーン本部の了解を得て、恵方巻を売ることになった。それだけでなく、野田氏は地域のフランチャイズチェーン協会の会合で、ローソン、ポプラといったコンビニ各社(ファミリーマートは当時未出店)の責任者に、『一緒にやりませんか』と声をかけた。

「それは面白い、やろう、やろう、と皆さん乗ってくれました。するとセブン‐イレブンだけでやっていたときには見向きもしなかった地元メディアが、急に取り上げ始めたんです」

評判は瞬く間に広島全域に広がった。セブン‐イレブン・ジャパン社内では、地域の成功事例は迅速に共有される。野田氏は幹部たちの前でケーススタディを発表して、恵方巻の取り組みは一気に全国へと広がった。