戦略軸⑤:政府方針に「ない」、日本の勝ち筋

ここまでは、市場と政府の動きを中心に論じてきた。しかし、本稿で最も伝えたいのは、ここからである。

政府方針には書かれていないが、日本の勝ち筋に決定的な領域がある。

政府の10.5兆円は、製造、物流、建設、介護、医療――「人手不足が深刻な分野の現場工程をAIとロボットで代替する」ことに主眼を置いている。これは正しい。しかし、フィジカルAIの真の到達点は、これらの先にある。

それは、「人間の身体との融合」である。

フィジカルAIは、最終的に「身体の外で動くロボット」から、「身体に組み込まれるテクノロジー」へと進化する。装着型サイボーグ、ロボット支援医療、再生医療と精密制御の融合、神経接続インターフェース、身体機能の補完・拡張――この領域こそ、日本が持つ精密制御技術、医療技術、安全性確保のノウハウが、すべて同時に活きる戦場である。

そして、この領域には、すでに日本企業が存在している。装着型サイボーグを開発するサイバーダインは、2026年3月期第2四半期において、国内外の15社からの引き合いに対応している。テルモは医療機器の世界トップクラスとして、ロボット支援医療と精密制御の融合領域を切り開きつつある。

作業を行う工業用ロボットアーム
写真=iStock.com/00one
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日本が主役となるための唯一の道

この領域では、世界で日本だけが先行できる。なぜなら、米国は規制と訴訟リスクで医療への踏み込みが遅く、中国は安全性と倫理面で欧米市場に受け入れられにくい。日本だけが、「安全な人機融合」を信頼性とともに世界に提供できる。

2030年代、2040年代の主役は、この「人につなげる」層の企業群になる可能性が極めて高い。

10.5兆円の使い道について、具体的な「選択と集中」を4つ提案したい。

第1に、製造現場データの主権的確保。秘匿性の高い一次データを国外に出さずに学習させる仕組み(AIRoAの基盤モデルとデータプラットフォーム)に、最優先で資金を投じるべきだ。

第2に、多用途ロボットOEMの育成。日本は産業用ロボットで世界シェア約7割を誇るが、サービスロボット市場では1割強にとどまる。この差を埋めるための量産能力強化が必要だ。

第3に、重要コンポーネントの国内サプライチェーン強化。アクチュエーター、モーター、減速機、蓄電池――これらを失えば、日本の構造的優位は瓦解する。

第4に、そして最も重要なのが、人機融合領域への先行投資である。10.5兆円のなかから、少なくとも1兆円規模をこの領域に集中投下する戦略を、いま設計すべきだ。これが、日本が2040年代の主役となるための、唯一の道である。