戦略軸②:10.5兆円の投資先はどこか?

市場が「大地」と「OS」を買っているなか、政府が10.5兆円を投じるのは、どの層か。

答えは明確だ。「身体」層である。

政府方針の政策パッケージを読み解くと、その意図が浮かび上がる。「多用途ロボットOEM(相手先ブランド名製造)の育成推進」「重要コンポーネント(アクチュエーター、モーター、減速機、蓄電池等)の設計・製造能力強化」――いずれも本書の「身体」層の核心への投資だ。

さらに、AIロボット協会(AIRoA、理事長:早稲田大学・尾形哲也教授)が2027年6月にオープンソース公開する国産ロボット基盤モデルは、「OS」と「身体」を結合する基盤である。トヨタ、KDDI、NECなどが正会員(年会費1000万円)として参画している。

構造はこうだ。市場が「大地」と「OS」を買い、政府が「身体」層と「OS-身体結合」に資金を流し込む。市場と政策が、層ごとに分担して日本の産業地図を完成させようとしている。

これは偶然ではない。2040年に60兆円規模となるAIロボット世界市場で、最終的に価値を生み出すのは「身体」層である。「大地」と「OS」がいくら充実しても、「身体」が現実世界で動かなければ、フィジカルAIは絵に描いた餅で終わる。

本書で論じた通り、「身体」層は4つの機能に分解される。「動かす(筋肉)」を担うファナックや安川電機。「見る(五感)」を担うキーエンス。「精密化する(関節)」を担う精密制御企業群。そして「人につなげる(身体の拡張・人機融合)」を担う医療・サイボーグ企業群。日本にはこの4機能すべてに世界トップクラスの企業がいる。

経営者・投資家が次に問うべきは、これら「身体」層の企業群が、いつ市場の主役になるかである。

AIと産業用ロボットアームのイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
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戦略軸③:量の中国、脳の米国、では日本は?

政府は「米中に並ぶ第3極として世界シェア3割超」を掲げる。しかし、この目標の現実性を冷徹に見極める必要がある。

スタンフォード大学Human-Centered AI研究所(HAI)が2026年4月に発表した『AI Index 2026』によれば、米中のAIモデル性能格差は、2023年5月時点の17.5~31.6ポイントから、2026年3月時点でわずか2.7%にまで縮小した。米国のAI投資2858億ドルは中国の124億ドルの23倍。にもかかわらず、性能差は実質ゼロになった。

そして、産業ロボット導入では中国が米国の9倍の速度で進んでいる。中国の年間導入台数は29.5万台、米国は3.42万台。この9倍という差が、現実世界での動作データ蓄積量――フィジカルAI時代に最も価値あるアセット――の差を生み出している。

中国EV最大手BYDの王伝福CEOは、こう喝破した。

「フィジカルAIとは、知能より先に身体を制御した者が勝つゲームである」

中国は、ドローンやEVの量産によって身体制御技術を磨き上げ、その上に自律知能を搭載する戦略を採っている。ヒューマノイド出荷でも、中国は世界の90%を占める。

中国は量で勝つ。米国は脳で勝つ。では、日本は何で勝つのか。

本書で論じた答えは、「世界が真似できない統合層」である。半導体製造装置、電子部品、半導体材料、検査装置、データセンター運用――これらを束ねた集積。量でも脳でもなく、「層の厚み」で勝負する戦略である。

そして、世界はすでに日本を選び始めている。海外投資家は日本株を「安全な避難所」と呼び始めた。米国市場が不安定ななかで、東京時間に独自の強さを見せる日本市場――これは、世界が日本を再評価し始めた兆候である。

ただし、油断はできない。中国の現場データ蓄積は、いまも毎日積み上がっている。日本が量で勝つのは不可能だ。だからこそ、「質的に異なる現場」を作るしかない。