ひきこもりの子どもが引っ越しを拒む
母親と話し合った計画を、知り合いの不動産会社に持ち込んだところ、壊す費用と立てる費用で、6000万円程度の見積もりが出た。資材の値上げが続いているので、実際には1割くらい上乗せした金額で予算を組んだほうが安心ともいわれたが、家を建てた後、伯父の家の売却資金が手に入れば、親亡き後の傑さんの生活設計は成り立つ計算だ。
伯父が住んでいた家は、8000万円前後で売却できるのではないかという見積もりが出ている。
ところが、自宅を壊して建て直す話が現実味を帯びてきたあたりから、傑さんが引っ越しに難色を示しだした。傑さんの世界は、自室がほとんどで、ほかの空間で過ごした時間はかなり少ない。家賃がかからない伯父の家への引っ越しだとしても、部屋から出ることに抵抗を示しだしたのである。
建て直しプランの話をしたときに反対しなかったことについて母親に尋ねたところ、「実際に引っ越しの話が出るまでは、現実味を帯びていなかったようです。具体的な話が進んでいるとわかって、急に怖くなったようです」とのこと。
ひきこもりの子どもがいる家庭の住み替えプランを立てている際、お金の問題はクリアできても、子どもの住み替えで足踏みしてしまうのはよくあるケースだ。私が相談に乗ったケースでも、早くて2~3年、時間がかかると10年以上、プランが進まないこともある。いや、順調に進むケースに出会った経験はない。
10年前の見積もりでは、4000万円くらいで建て替えられそうだったのが、新たに見積もりを取ったら、5000万円は超えるだろうといわれているケースもある。
ここからは、母子の持久戦に入る。とはいえ、のんびりもしていられない。母親は80歳を超えているので、要介護認定を受けたら、建て替えプランが崩れてしまう可能性が高いからである。
自宅の建て替えをしてくれる業者が、伯父の家の売却も担当してくれそうな流れになっている。あとは、傑さんの決断次第。傑さんがいつ、重い腰を上げてくれるかにかかっている。建て替えプランは過去に何度も頓挫してきた経験から、急がせてもうまくいかないことはないことがわかっているので、ここからはじっと傑さんのOKが出るのを待つことになる。
相続で資金プランが好転するケースも
ひきこもり家族の生活設計を立てている中で、プランがいきなり好転するケースがあるが、そのほとんどが「親以外の親族からの相続」によるものだ。親の兄弟姉妹に、子どもがいない家庭が増えているため、今後も高田家のようなケースは増えると思われる。
ただし、増えた財産をどのように活用して、親亡き後の生活設計を立てていくかは、それぞれの家庭が持つ課題次第だ。
数千万円の相続財産を手に入れたのに、今まで我慢していた反動から、好きなだけ買い物したり、課金したりで、2~3年で相続財産を溶かしてしまったケースもある。予想外のお金を手にするのは、危険と隣り合わせでもあるのだ。
いずれにしても、ひきこもりのお子さんの引っ越しは、数年単位で時間のかかるプランとなるのが一般的だ。だが、傑さんの母親は、すでに80代。母親が介護状態になる前に、建て替えプランが実行されることを願ってやまない。


