疑惑を指摘された場合などの危機管理の要諦は、初期段階での事実把握、迅速な情報公開、第三者委員会などによる検証、身内の処分を含む毅然としたガバナンスとされる。

だが、首相は、内部調査を待たずに「一切行っていない」と全面否定し、いきなり退路を断ってしまった。ここまでは容認するが、ここから先は死守するという防御線を考えていなかったのだろう。

首相らは、第三者委員会の設置に拒否反応を示している。石破茂前首相が、6月6日のTBSラジオ番組で「もし真実なら『そんなことありません』と言うのは許されない」「党の名誉にかけて、きちっとやるのが大事だ」と自民党による調査・検証を求めたが、鈴木俊一幹事長は8日の記者会見で「何かの調査について、党として行うという考えはない」と否定した。危機管理の鉄則に逆行している。

鈴木氏にすれば、首相の機嫌を損ねるだけでなく、中傷動画の標的にされた小泉、林両氏が現職閣僚という立場だけに、余計なことをしたくないという心境かもしれない。

2025年10月21日、高市内閣の発足・官邸の階段を降りて初の閣議写真撮影に向かう様子
2025年10月21日、高市内閣の発足・官邸の階段を降りて初の閣議写真撮影に向かう様子(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

「首相としての資質が脅かされかねない」

立憲民主党の斎藤嘉隆国対委員長は6月9日、自民党の磯崎仁彦参院国対委員長と会談し、参院予算委員会に木下秘書を参考人招致するよう要求したが、磯崎氏は拒否した。中道改革の重徳和彦国会対策委員長が11日に自民党の梶山弘志国対委員長に木下秘書の参考人招致を求めたが、梶山氏も応じなかった。

この先、木下秘書が公の場で説明することはあるのだろうか。その説明なしに首相の信頼回復への道は開けないはずだ。

中道改革連合の小川淳也代表は12日の記者会見で、首相の対応について「この間、言い逃れともとられない、その場しのぎの答弁、言葉遣い、矛盾を重ね、国民の信頼を失っていく。そこにさらに理解しがたい言い訳や、言い逃れを塗り重ねられていくことで、首相としての資質や信任が脅かされかねない局面に入った」と論評した。その通りだろう。

首相はかねて守りに弱いと言われてきた。危機に臨んで身を挺して守ってくれる側近がいない。育てても来なかった。首相官邸入りしてからも基本的に不機嫌モードで官房副長官や首相秘書官らを遠ざけ、そこからの意見も情報も取り入れようとしてこなかった。そのツケが回ってきたともいえる。

6月15日の産経新聞・FNN(フジテレビ系)合同世論調査(13~14日)で、内閣支持率は65.3%と依然高いものの、前回5月調査から2.7ポイント下がり、政権発足以来最低となった。不支持率は28.1%だった。中傷動画問題に関する高市首相の説明に「納得できない」が52%で、「納得できる」は40.2%だった。首相の秘書の参考人招致が「必要だ」は60.1%に達し、「不要だ」は35.6%にとどまった。