巻き込まれた沿線住民の悲哀

迷走するHS2計画。北部延伸が中止されたことで、意味もなく家族が引き裂かれたと訴える人々がいる。

85歳のウィルキンソン氏は、HS2の高速鉄道路線による立ち退きの対象となり、英中部ウィットモア・ヒースにあった自宅を手放さざるを得なかった。英テレビ放送局のGBニュースがその顛末を伝えている。

妻ジリアンさんと1970年代に購入し、30年以上を過ごした、思い出の4ベッドルームの邸宅。特例措置による買い取り価格を提示され、120万ポンド(約2億5800万円)で売却に合意した。

ところが、2019年の引っ越しを目前にした数週間前、ジリアンさんが膵臓がんで逝去する。

追い打ちをかけるように、HS2のバーミンガム―マンチェスター区間自体が白紙撤回された。買い上げ済みの物件群は使い道を失い、HS2は買い取ったウィルキンソン氏の元自邸を賃貸に回すようになった。

村は壊され、家は大麻農場に

そして数年後、ウィルキンソン氏は元自宅で起きていた事態を知らされる。

入居者はいないはずだったが、通行人が「大麻の臭いがする」と気づいて通報。スタフォードシャー警察が踏み込むと、5部屋にわたって184株の大麻が栽培されていた。

大麻の葉
写真=iStock.com/Yarphoto
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HS2リミテッドは買収済み物件の警備費に2023〜24年度だけで190万ポンド(約4億800万円)を投じていたが、自身の貸し物件で違法薬物の量産が行われていることを把握していなかった。

「HS2は我々の村を破壊した。成功した人々が終の住処として選んだ良き共同体だったが、路線計画によってそれが引き裂かれた」とウィルキンソン氏は語る。「もう12人以上が、家の売却を待つ間に亡くなった。とても戻る気にはなれない。妻との思い出はすべて失われた」

HS2側が不動産の取得に投じた費用は、白紙撤回されたバーミンガム―マンチェスター区間だけで6億3300万ポンド(約1360億円)、計画全体では累計37億9000万ポンド(約8140億円)に達する。

誰も住まなくなった家屋を維持するための警備費用もかさんでおり、迷走する計画の代償は大きい。