トヨタ幹部が毎年通う長野県の古寺
蓼科山聖光寺(長野県茅野市)へ行ったのは昨年、2025年の夏のことだ。聖光寺は蓼科高原にある寺で、JR中央東線茅野駅からバスで約30分の距離にある。
蓼科山聖光寺は法相宗の寺で大本山は奈良の薬師寺。交通安全のための寺だ。縁起にはこうある。
(同寺院ホームページ)
聖光寺は創建以来、毎月18日には観音菩薩の縁日に因み、交通安全、一路安穏、安全綜躰祈願法要を営み、毎年7月17、18日には交通安全祈願大法要を催している。そして、毎年夏の大法要にはトヨタの幹部、関係者が必ず出席する。もうひとつ、2019年からは「タテシナ会議」という交通事故死ゼロを目標とする会議が始まり、2023年には事故削減に向けた実務を担う分科会活動が始まった。タテシナ会議にはトヨタだけでなく、自動車会社、損害保険会社、自転車会社、警察などのトップが参加し、講演を聞いた後、討議を行う。また、その議論の方向性を受けて、分科会の日々の活動も推進されることとなる。トヨタの会長、豊田章男は2日間、その場にいて、法要と会議に集中する。それくらい、交通事故を減らすために注力している。
「交通事故死ゼロのために保険を作りたい」
わたしは2025年に開かれた3回目のタテシナ会議、そして法要にも出た。タテシナ会議であいおいニッセイ同和損保社長の新納啓介に初めて会った。新納啓介はこう言っていた。
「タテシナ会議に出て、豊田会長の交通事故死ゼロの決意を聞きました。交通事故死ゼロのためにわたしたちは今、やっていることを進めていこうと思っています」
わたしも同じだった。タテシナ会議に出ると、「交通事故死ゼロ」を信じることができるようになる。交通事故ゼロではない。交通事故死ゼロだ。
交通事故そのものはなくならないだろう。しかし、交通事故死をゼロにすることはまったく不可能なわけではない。信じて取り組みを続ければ交通事故死はゼロになりうる。タテシナ会議にいればそう信じることがおかしなことではないと考えるようになった。
「交通事故死をゼロにする方法」を真剣に考える
わたしはタテシナ会議に出て、信じて取り組んでみようと思うようになったのは『交通事故を20%減らした自動車保険』(プレジデント社)という本の取材を通してのことだった。同書では取材した人たちに「交通事故死をゼロにするアイデアはありますか?」と聞いてみたのである。聞いてみると、人は考え込む。そして、自分なりのアイデアを披露した。なかでも有効だと思ったアイデアは「一度、交通事故を起こしたことのある人」からのそれだった。交通事故を起こした人はもう二度とごめんだと思っている。誰よりも交通事故をなくそうと真摯に考えている。
わたしにとっては「交通事故死をゼロにするアイデアはありますか?」と聞いて歩くことがその目標に近づく第一歩だった。そう思えてならない。考えてみれば、「交通事故死ゼロのアイデアはありますか?」とこれまで聞いて歩いた人はいない。「交通事故をなくす方法はありますか?」と質問した人はいるだろうけれど、「交通事故死ゼロを信じますか?」「信じるのであれば何かアイデアはありますか?」と質問を重ねた人はいないと思う。それを今回、やってみた。答えは同書にあるが、本連載でも触れることにしたい。



