あいおいニッセイ同和損保が販売する「テレマティクス自動車保険」は、運転の挙動に点数が付き、安全運転の度合いを価格に反映する保険だ。契約数は約220万件で、契約者の交通事故を20%減らすことに成功した。「事故がないと儲からない」といわれる保険業界で、なぜそのような商品を売るのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが新納啓介社長を直撃した――。

10人中10人を見守るということ

トヨタは毎年、長野県の蓼科高原の聖光寺で交通安全の法要を行うとともにタテシナ会議という「交通事故死ゼロ」を目標とするセッションを開いている。2025年のタテシナ会議に参加したわたしはそこで、あいおいニッセイ同和損保の社長、新納啓介に会った。その後、彼には二度、インタビューすることになる。それは、同社が契約者の交通事故を20パーセント減らしたテレマティクス保険を開発したと聞いたからだ。

後のインタビューで新納はこう話していた。

「保険は見守りであり、人の支えになるものだと思う。僕は交通事故死をゼロにしたい。これは亡くなった豊田章一郎名誉会長、そして、現在の豊田章男会長が以前から言い続けていたことです。

私はタテシナ会議へ行くたびに、交通事故死をゼロにしようと決心します。そのために僕らができることは何か。それは見守りなんです。契約者の方たちを見守ること。これまでの自動車保険は事故に遭った人たちにとっての支えでした。しかし、保険の契約者の方たちのうち、事故に遭うのは約10%なんです。ご契約いただいている方の10人に1人しか事故は起きません。従来、保険会社は事故に遭わない9人の方には何もサービスをお届けできていなかった。

ところが、テレマティクス保険は違います。10人中、10人の方たちに見守るというサービスをお届けできるのです。僕らは事故に遭わない方たちも見守ります。この保険はトヨタさん、トヨタコネクティッドさんが、つながる車(コネクティッドカー)を開発したからこそできたことです。見守りは人を安心させます。人は見守られていれば孤独ではなくなる。僕は少年時代、ロンドンで最初はいじめられたし、ずいぶんと揉まれました。でも、ポール・マッカートニーを聴いて、ポールに見守られてから強くなりました。それは孤独ではなくなったからです」

「テレマティクス保険発売で会社が変わった」と語る新納氏。
撮影=尾関祐司
「テレマティクス保険発売で会社が変わった」と語る新納氏。

チャレンジャーたから他社がやらないことをやる

新納は次のように続けた。

「我々はずっとチャレンジャーだった。僕が入った大東京火災も合併した千代田火災も中堅だった。合併してからも業界で4位が定位置……。チャレンジャーだったから何かしなくてはならなかった。同業他社と同じことをしていたら我々の存在意義はなくなるんです。そんな精神があったからこそ、テレマティクス保険のような、他社がやらない保険を全社でやっていこうとなったわけなんです。

『テレマティクス保険を進めていったら、我々はゲームチェンジャーになれるんだ』と言って、社員を鼓舞してきました。ゲームチェンジをするんだ、この業界を変えるんだ。すぐに売れる商品ではない。でも、目の前の壁を乗り越えよう。乗り越えれば、この領域ではリードできるんだ。だから歯を食いしばってやっていこうぜって、みんなに言ったんです。事実です。それが今、実を結びつつあります。弊社は大学生への調査では就職人気が保険業界でナンバーワンになりました(週刊ダイヤモンド2027年卒・就活[後半戦])。かつてはありえないことだった」