イギリスでヒットした「モーター一番」
同社はイギリスでも他社が出さないチャレンジングな自動車保険を出している。
「モーター一番」という名称のそれだ。扱っているのは欧州あいおいニッセイ同和損保である。この保険の特徴は日本語でサービス対応すること。
直近に日本の自動車保険契約を持っていて、この保険に入ろうとする人であれば日本の無事故記録または履歴を考慮してもらうことができる。日本から訪ねてきた家族や友人が同じ車に乗りたい場合は追加保険料を支払えば補償対象のドライバーとして認められる。年間1500件ほど売れているようだが、これくらいの契約件数では大いに儲かる商品とは言い難い。
だが、海外駐在員で車を運転する人にとってはありがたい保険だ。なにしろ事故に遭った時、日本語で説明できるのである。事故でパニック状態になっている時、母国語でコミュニケートできるのは安心だ。わたしは生命保険も損害保険も金融エリートが自らの会社にとって有利な商品を作っているものと思いこんでいた。だが、「モーター一番」は海外の同胞を見守るために作った商品だ。
新納が率いる、あいおいニッセイ同和損保は義理と人情と浪花節を重んじるところのある会社に思える。
なぜ乱暴な運転が変わったのか
さて、新納の話の続きである。
「モーター一番は駐在の方たちには人気があります。イギリスの道路はアメリカのように広くはないんです。細い道があるから接触事故なども多くなります。長期間、駐在している人は交通違反、交通事故をやってしまうんです。事故を起こした時、不安になってしまうでしょう。僕はそういう時に助けてあげる窓口になることは意義のあることだと思っています」
そのまま保険の話が続いた。
「テレマティクス保険を普及させたいと思ったのは交通事故を起こさないようにしたいからです。お客さまが増えていけば、データがさらに増えていきます。データが充実すればするほど交通事故に遭う確率は減っていきます。私たちがやることは保険の内容を進化させていくこと。
先ほど申し上げたように、交通事故を起こすのが10人のうち1人とします。弊社は事故を起こさない9人の方々の運転挙動データも毎日取得しています。その方たちが急ブレーキ、急ハンドル、急加速をしたら、その地点がわかります。地点を特定して、精度を上げていき、データを地元の警察、地域の自治体にお届けします。そうすれば、急ブレーキが多い地点などに看板を設置したり、視界をよくしたりすることができます。お客さまの走行データ、運転挙動データが、交通事故を防ぎ、ひいてはみなさんの町をよくしていくのです。
テレマティクス保険は加入者全体で事故を減らすことに参画できる保険なんです。
ただ、最初のうちはまったく売れなかった。苦労しました。いや、今もまだ苦労は続いていますけれど……」
「いや、意味わかんないよ」と言われ…
「2018年にコネクティッドカー向けの『タフ・つながるクルマの保険』を売り出した時、私は執行役員で北陸担当でした。現場で保険代理店さんを回って、テレマティクス保険を売っていただいていました。雪が降っていました。スーツに長靴を履いて、一軒一軒、保険代理店さんを訪ねて説明するわけです。まだ、コネクティッドカー自体も車種が限られていた頃です。当時はまだ事故を20%減らしたというデータもありませんでした。説明も理屈が先行していたかもしれません。
私が熱くなってしゃべっていたら、富山のある代理店の社長さんから『いや、意味がわからない』って言われました。なかなか売っていただけなかった。でも、懲りずに何度も訪ねていき、今では扱っていただいています。
こんな経験もあります。違う保険代理店さんの話です。
『新納さん、この保険はデータ採るんでしょ。俺がどこを走ってるか、わかっちゃうんだ。だったら、やめておくよ。かみさんにデータを知られるのはちょっと困る』
私はもう一度、説明しました。
『いえいえ、誤解です。急ハンドル、急ブレーキ、急発進のデータです。居場所を奥さまに伝えるデータではありません』
そうしたら、『なんだ。そうか』と笑っていました」
