「お父さんの乱暴な運転」が変わった

「売れるようになって嬉しかったのはある奥さまから手紙をいただいたこと。

弊社のテレマティクス保険は運転の挙動に点数がついて、点数がよければ保険料が割り引かれる仕組みになっています。すると運転の挙動が変わるのです。私がいただいた手紙にはこうありました。

『社長様、感謝申し上げます。私が助手席に乗っていて、いつも嫌でした。それはうちのお父さんの運転が荒いからです。乱暴な運転をするからいつも注意していたのに、私がいくら言っても、言うことを聞きませんでした。ところが、社長様のところの保険に加入したら、運転するたびに毎回、65点、70点と点数が出るわけです。うちのお父さん、負けず嫌いですから、「これは許せん」とか言って、「よし点数上げてやるぞ」と言うようになりました。そうしたら、このところ、毎日、乗るたびに百点になりました。急発進もしませんし、スピードも上げません。本当にありがとうございます』

これほど嬉しいことはありませんでした。

弊社のテレマティクス保険はトヨタさんと一緒に作ってきました。トヨタさんは交通事故死ゼロを目指しています。そのために夏にタテシナ会議を開いています。弊社は現会長の金杉(恭三)が社長の時代から出席して、交通事故死ゼロへの決意を強固にしてきました。タテシナ会議では『交通事故死ゼロを目指すにはドライバー、自転車、歩行者の行動変容が必要だ』としています。事故を起こさないようにするには行動の変容が必要だ。そして、テレマティクス保険とはお客さまからの手紙にもあったように、まさしくドライバーの行動を変容させるものなんです」

事故がなくなったら食べていけないのでは?

新納の話は熱を帯びてきた。

「テレマティクス保険は運転挙動で点数をつけるのですが、そのアルゴリズムを開発したのが弊社が買収したイギリスの会社、ITBでした。ITBのデータを日本用にチューニングして、トヨタさんと協議しながら開発したのがこの保険なんです。トヨタさんもまた行動変容型の保険を作って、交通事故死をゼロにしたいと思ったのでしょう。

ただ、この保険を出した当時、叩かれたこともありました。

『保険会社が事故をなくすといったら、それは商売のタネをなくすことになるんじゃないのか? 本当に事故をなくしたいのか? 保険会社は食べていけなくなるんじゃないのか?』

私は言い返したんです。いや、世の中から事故はなくなった方がいいんだ、と。

市街地での衝突事故を起こした車両
写真=iStock.com/Lajst
※写真はイメージです

実はイギリスのITBがテレマティクス保険を出したのは自動車の保険料が非常に高額で、保険に入らない若者が多かったからです。自動車保険料が年間で80万円にもなりましたから、無保険の若者が出てきます。無保険で事故を起こしたら、被害者は補償されません。社会問題になったため、ITBの創業者は若者が入ることのできる保険料の保険を作ろうとしました。それにとどまらず、事故を起こさないために行動変容を促す保険を作ることにしました。とてもいい考えです。

しかし、イギリスでも最初のうち、テレマティクス保険は売れなかった。我々がぶち当たった壁と同じです。『この保険に入れば事故は減るはずです』と。しかし、『減るはず』というのは説得力がない。それでも彼らは売った。すると、普及し始めて、結果としてドライバーの行動が変容し、交通事故が減ってきた」