日立の車両工場が陥った存続危機
一般市民の親しんだ村を引き裂いた、HS2の計画縮小。一方で、HS2向け車両を製造することになっていた英国の2つの主要工場にも一時、深刻な影響が及ぼうとしていた。
英経済紙のフィナンシャル・タイムズが2024年3月に報じたところによると、イングランド北東部のダラム州にある日立製作所のニュートン・エイクリフ工場と、ダービー市にあるフランス系アルストムのリッチャーチ・レーン工場が、ともに存続の危機に陥った。
両社は2021年、HS2向け54編成をジョイントベンチャー形式で受注していた。だが2023年にスナク前首相がHS2の北部区間を廃止したため、工場の生産開始は2026年まで先送りされた。その間、両工場は「発注がない空白期間」が発生。手持ちの受注分が2024年早々に終了すると、生産するものが何もない状態となる。
イギリス政府は日立に対し、つなぎとなる西岸メインライン用の車両を追加発注することもできたが、これを拒否。日立はニュートン・エイクリフ工場の資産を6480万ポンド(約139億円)減損する事態に追い込まれた。
一部の業界関係者は、最終的にHS2の車両がイギリス国外の工場で製造される可能性があるとすら指摘した。
計画縮小の尻拭いに追われる英政府
結局のところ、英テレグラフ紙が翌4月に伝えたように、英政府は緊急の救済措置に動くことになる。
当時のマーク・ハーパー運輸相がアルストムグループCEOのアンリ・プーパール=ラファルジュ氏と緊急会談し、ロンドンを横断する近郊鉄道路線のエリザベス線に向け、通勤型車両10編成の新規発注を承認することで合意した。
3000人の雇用を抱えるダービー工場は閉鎖を免れる見通しとなり、同紙は「イギリス最大の鉄道車両工場が閉鎖から救出された」と報道。もし救済が間に合わなければ「イギリスはG7諸国の中で唯一、列車の設計と製造を国内で行えない国になっていた」と指摘した。
日立も2025年4月、英政府が仲介する形で大口の発注を確保している。日立は同月3日、イギリスの鉄道事業者アリーバ・グループ傘下のグランド・セントラルから、現有のディーゼル車両を全置換する新型「トライモード」車両(架線電源・バッテリー・ディーゼルの3方式に対応)9編成・計45両を、10年間の保守契約込みで約3億ポンド(約644億円)で受注したと発表した。
国内での製造能力を維持し、発注先との信頼関係を維持するため、イギリス政府は計画縮小の尻拭いに追われることとなった。

