リニアより遅く、リニアより高い

日本のリニアとの比較では、より不利が目立つ。

日本のリニア中央新幹線(品川―名古屋間)の総工事費は、11兆円。車両費を含み、既存の山梨の実験線を除いた額だ。浮上式で走行し、最高時速500キロで東京―名古屋間の約286キロを最速40分で結ぶ。高速走行に耐える試験環境が存在しなかったHS2とは異なり、実験線で長年の試験を重ねてきた。

L0系改良型950番台、2020年8月29日 笛吹市撮影
L0系改良型950番台、2020年8月29日 笛吹市撮影(写真=Saruno Hirobano/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

対するイギリスのHS2は、あくまで既存の新幹線と同等の高速鉄道だ。最高時速は320キロと大幅に抑制されている。敷設距離は約225キロでリニアより短いが、投資額は最大でリニアの倍に達する1027億ポンド(約22兆円)に膨れ上がった。

1キロあたりの単価でみれば、リニアの2.5倍以上というコスト効率の悪さが際立つ。

実際のところ、イギリスの国内世論も冷ややかだ。世論調査会社ユーガブが2020年2月に実施した調査によれば、イギリス全体で40%がHS2の建設に反対し、賛成は32%にとどまった。

計画発表時の2012年1月当時でこそ、賛成42%に対して反対37%と、わずかながら支持が優勢であった。その後、青天井に増加する予算などを背景に、時が経つにつれて国民の信頼を失っていった経緯がある。

当初予算の3倍額となった今、イギリス国民の理解を得ることは一層難しくなった。

政権は全面中止の可能性さえ探った

それでもイギリスは、HS2の計画を止められない。

GOV.UKによれば、2026年3月末時点でHS2にこれまで投じられた金額は、名目価格で442億ポンド(約9兆4900億円)にのぼる。すでに、当初のプロジェクト全予算とほぼ肩を並べる額が投じられた。

それでいて、全線にわたる土木工事の完成は当初スケジュールから少なくとも4年遅れ。安全で安定した運行を実現するための試験・調整に要する期間も、当初計画では3年分短く見積もられていたことが明らかになった。計画完了までに必要とされる残りの年数は、2020年の着工時から、おおむね変わっていない。

そこで政権が探ったのが、撤退の可能性だ。

コベントリー・テレグラフによれば、英労働党の閣僚は内部レビューを実施するよう指示し、計画全体を白紙撤回したほうが続行するよりも費用対効果で勝るのかを検証させた。

ところが、はじき出された結論は、むしろ閣僚たちの選択肢を狭めることとなった。

すでに442億ポンドを注ぎ込んだこの計画をいま中止しても、完成までやり遂げるのと少なくとも同額の資金が必要になるというのだ。

英ラジオ局のLBCが入手した文書によれば、HS2を率いる責任者は、計画を中止する場合、建設済みの全用地を「建設前の状態」に戻す法的義務があると指摘した。

つまり、すでに掘削された1億立方メートル(東京ドーム約80杯分)の土砂を埋め戻し、着工済みの46マイル(約74キロ)に及ぶトンネル、45の高架橋、132の橋梁を解体することになる。

しかも、こうした構造物の多くは、そもそも解体することを想定して設計されていない。匿名の関係者はLBCに、「いま中止しても、完成させるのと少なくとも同等の費用がかかり、しかも便益は一切得られない」と語った。

イギリスにとって、退路はすでにないも同然だった。