コレステロール値に関する間違い
そのほか、「コレステロール値が低いと、がんになりやすくなる」という説が一部医師によってまことしやかに広まっていますが、これは大間違いです。
確かに「コレステロール値が低いほど、がんが多い」という観察結果はよく知られています(※4)。でも、これは必ずしも「コレステロールが低いから、がんになる」とは言えません。反対に「がんがコレステロール値を下げている」、または肝硬変のように何らかの要因が「コレステロール値の低下」と「がん」の両方を引き起こしているケースがあります。現在の主要ながん予防ガイドラインや専門家団体は、低コレステロール血症を主要ながん危険因子として位置づけていません。
メディアでは、不正確でも意外性のある医療情報が人気ですが、「医師が言っているから正しい」と受け取るのではなく、その主張が専門家の間で広く支持されているのか、公的機関や学会の見解と整合しているのかを確認することが大切です。根拠のあるがん予防法を知りたいなら、国立がん研究センターの「科学的根拠に基づくがん予防法」がおすすめです(※5)。ぜひ一度、読んでみてください。
※4 Serum cholesterol levels and cancer mortality in 361,662 men screened for the Multiple Risk Factor Intervention Trial - PubMed
※5 国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがん予防法」
私たちにできる現実的ながん予防策
最後に、がんになるかどうかには「運」の要素もあります。というか、運の要素のほうが大きいかもしれません。感染症対策を行なって、タバコを吸わず、お酒を飲まず、きちんと運動して適正体重を維持していても、がんになる人はいます。反対に長年にわたってタバコを吸い続けても、大きな病気をせずに天寿を全うする人もいます。しかし、それは喫煙や飲酒が安全だという意味ではありません。予防とは「必ず防ぐ」ためのものではなく、「確率を下げる」ためのものです。
国立がん研究センターは、「禁煙」「節度ある飲酒」「適切な食生活」「十分な身体活動」「適正体重の維持」という5つの健康習慣を実践している人は、ほとんど実践していない人に比べて、がんの発症リスクが男性で43%、女性で37%低いと推計しています。残りの多くは加齢や遺伝、偶然の要素など、私たちにはどうしようもない部分です。
この数字を大きいと感じるか、小さいと感じるかは人によって異なります。「3~4割も減る」と考える人もいれば、「それだけ努力しても3~4割しか減らない」と考える人もいるでしょう。そこは人それぞれ。どの程度まで生活習慣の改善に取り組むかは、最終的には個人の価値観や人生観による部分が大きいといえます。
お酒のリスクの話をすると、「そんなに我慢して長生きして幸せなのか」と言われることがあります。私自身、お酒は飲みます。別に誰かに禁酒を強制したいわけでもありません。ただ、お酒を飲むことにリスクがあるのは事実です。そのリスクを知った上で、それ以上の価値があると考えるならお酒を飲めばいいという話です。
他のがん予防対策も同じです。できる対策は行う。しかし、それで100%防げるわけではありません。人事を尽くして天命を待つ。結局のところ、それが私たちにできる最も現実的ながん予防なのだと思います。


