第1位 感染症(16.6%)
がんの原因の第1位は、じつは感染症です。ただし、ピロリ菌や肝炎ウイルス、HPVなど複数の病原体をまとめたカテゴリーですから、単一原因としては喫煙のほうが害が大きいともいえます。16.6%という数字は、「もしも感染症による発がんがまったく起きなかったら、日本全体のがんの罹患がどれくらい減るか」を表したもの。
がんの原因となる代表的な病原体には、ピロリ菌、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)などがあります。ピロリ菌は胃がん、肝炎ウイルスは肝がん、HPVは子宮頸がんの主な原因です。長期間にわたって炎症を引き起こしたり、細胞の遺伝子に影響を与えたりすることで、がんの発生を促します。
これらの感染症には対策手段があります。B型肝炎ウイルスやHPVには有効なワクチンがあり、感染そのものを防ぐことができます。感染してしまった場合でも、ピロリ菌は除菌治療によって胃がんのリスクを下げることができますし、C型肝炎は抗ウイルス薬によって高率に治癒が期待できるようになりました。B型肝炎は高率に治癒とまではいきませんが、やはり抗ウイルス薬によってウイルス増殖を抑え、肝硬変や肝がんへの進行リスクを低減できます。さらにHPVについては、HPV検査を用いて高リスクの人を絞り込み、効率的に子宮頸がんを予防する検診も普及しつつあります。
「感染症ががんの原因になる」という事実は意外かもしれません。しかし見方を変えれば、感染対策やワクチン接種、適切な検査や治療によって、将来のがんを減らせる余地が大きいということでもあります。
ストレスや添加物は原因になるか
さて、このランキングを見て、「ストレスが入っていない」「食品添加物は関係ないのか」などと思った人もいるでしょう。
もちろん、この研究はあらゆる発がん要因を網羅しているわけではありません。しかし、世間でがんの原因として語られるものの中には、科学的な根拠が十分とはいえないものも少なくありません。たとえば、仕事や家庭、人間関係などによる精神的・心理的ストレスについては、がんとの関連を認めた研究もあれば、認めない研究もあります。研究結果は一貫しておらず、喫煙や飲酒のような主要な発がん要因であることを示す確立した証拠はありません(※3)。
もちろん、ストレスが健康に無害という意味ではありません。ストレスは、飲酒や喫煙、運動不足、睡眠不足といった好ましくない生活習慣につながり、それらを通じて間接的にがんを増やす可能性があります。しかし、例えば「禁煙するとストレスがたまり、かえってがんになりやすい」といった話は間違いです。喫煙が多くのがんのリスクを高めることははっきりしていて、禁煙による利益を精神的ストレスの害が上回るという根拠はありません。
食品添加物の影響もよく話題になります。しかし、現在の科学的知見では、日常的な摂取量の食品添加物ががんの主要な原因とは考えられません。SNSなどで「日本は食品添加物の規制が緩いから、がんが増え続けている」といった主張を見かけることがあります。しかし、日本の食品添加物規制が特に緩いという事実はありません。また、日本でがん患者数が増えている最大の理由は高齢化です。同じ年齢で比較した年齢調整罹患率や年齢調整死亡率を見ると、多くのがんは減少あるいは横ばいです。
※3 Stress and Cancer - NCI
