金正恩を引き留める側に回っている
中国には、経済力、軍事力、ロシアとの関係、グローバルサウスへの影響力がなお残る。それでも、平壌の戦略的価値が急騰していることは確かだ。
習近平の笑顔を、勝者の余裕だけで説明するのは弱い。なぜ習近平は金正恩を丁重に扱う必要に迫られたのか。答えは、ロシア、イラン戦争、台湾という三重苦が同時に北京を締め上げ、北朝鮮というカードの値段をつり上げたからだ。
中国は北朝鮮を米国側に追いやる展開を回避したい。ロシアに完全に奪われる展開も回避したい。核問題をめぐって正面から叱りつければ、金正恩はモスクワへさらに寄る。沈黙すれば、平壌の核保有を黙認したように映る。どちらを選んでも、北京には痛みが残る。
ここに、北京の「辛すぎる本音」がにじむ。かつて中国は平壌を抑える側だった。いまは、平壌を引き留める側に回っている。金正恩に向けた笑顔は友好の証しであると同時に、選択肢を狭められた大国の苦い笑顔にも見える。
日本に跳ね返る「危機の連鎖」
日本にとって重要なのは、朝鮮半島、台湾海峡、中東を一体の危機として見ることだ。3月18日に配信されたロイターの記事によれば、米国務省高官は、イラン戦争下でも台湾への安全保障協力を「最優先」としていると議会で説明した。
5月31日に配信されたロイターの記事によれば、インド太平洋各国は中国の軍事的台頭と米国の関与への不安の間で、防衛協力を急いでいる。
エネルギー面でも危機は近い。3月4日に配信されたロイターの記事によれば、日本は石油供給の約95%を中東に依存し、その約70%がホルムズ海峡を経由している。液化天然ガス(LNG)でも、中東からの輸入の一部が同海峡に関わる。朝鮮半島の緊張はミサイル防衛を揺らし、台湾海峡の緊張は米軍の展開を揺らし、ホルムズ海峡の緊張はガソリン価格を揺らす。
習近平の笑顔は、平壌の歓迎式典を越えて広がる意味を持つ。それは、米中露朝が互いの弱点を利用し合い、一つの地域の火種が別の地域の交渉材料になる時代の表情である。金正恩が握った6000人戦死や核兵器といったカードは、北京、モスクワ、ワシントンの計算を動かす大きなカードになった。
そのカードが切られる場所は、日本のすぐ近くにある。

