習近平は北朝鮮を粗末に扱えない

そして第三の要因が、台湾海峡と朝鮮半島の連結である。それが輪郭を現したのが、5月中旬のトランプ訪中だった。

5月15日に配信されたロイターの記事によれば、トランプの北京訪問では、貿易とイラン戦争をめぐる具体的成果が限られ、習近平は台湾問題の扱いを誤れば衝突に発展し得ると警告した。米中首脳会談は友好演出に包まれたが、内側ではイラン、台湾、貿易が交差していた。

台湾海峡有事を想定すれば、米国は在日米軍・在韓米軍、海空軍戦力、弾薬、情報監視網を一体で運用する。朝鮮半島で北朝鮮が緊張を高めれば、米軍や韓国軍の注意は北へ割かれ、台湾正面に回せる余力は変わる。

逆に台湾海峡が緊迫すれば、日本の基地運用や米韓同盟にも波及し、朝鮮半島の抑止態勢も組み替えを迫られる。つまり北京にとって北朝鮮は、台湾問題から切り離された周辺国ではない。米国の同盟網に負荷をかけ、東アジア全体の軍事資源配分を左右し得る存在になった。しかも金正恩がロシアという別の後ろ盾を得た以上、平壌が独自に危機を演出すれば、中国の対台湾シナリオにも不確実性が入り込む。だからこそ、習近平は北朝鮮を粗末に扱えない。

原油、海上交通、台湾、朝鮮半島が同時に圧力線として浮かび上がると、北京は東アジアで手持ちのカードを維持する必要に迫られる。北朝鮮は、その一枚として急に重くなる。

金正恩は「大きな勝利」を手にした

今回の会談で目立ったのは、成果を強調する言葉の多さと、その一方で核問題を正面から扱わなかった空白だった。6月10日に配信されたロイターの記事によれば、中朝双方は訪問の成果を強調したが、非核化や米国を議題の中心から外した。専門家は、北朝鮮の核計画が議題の前面から外れたことを金正恩にとって「大きな勝利」と見ている。

6月9日に配信されたAP通信の記事も、中国と北朝鮮の国営メディアで核問題への言及が後景に退いたことは、核保有国としての承認を求める金正恩にとって勝利になり得ると分析した。AP通信は、北京が最近、朝鮮半島の安定を優先し、非核化を2番目の目標に置くようになっているとの専門家の見方も紹介している。

6月8日に配信された新華社の記事によれば、金正恩は、近年、国際社会が前例のない深刻な変化を経験しているとしたうえで、北朝鮮は「一つの中国」原則を揺るぎなく堅持し、中国の核心的利益を守る政策と立場を断固支持すると述べた。

核問題を脇に置いたこの対応は、習近平にとって苦い。金正恩は核保有路線を鮮明にし、ロシアに兵士を出し、中国には台湾問題で支持を与える。その見返りに、北京は核問題を正面から責めるより、関係維持を優先したように映る。金正恩は、核、ロシア、台湾という三枚のカードを一度に机上へ置いた。北朝鮮に強気に出にくい構造は、ここに表れている。