昔と比べて、体が硬くなっていないか
とはいえ動脈硬化が進んでも、痛みや不快感などの自覚症状が出にくいため、「血管の老化」をいまいち実感できない人が大半だろう。一番の指標は血圧だ。新入社員の頃に行った健康診断の結果と比べて、今のほうが血圧が高ければ動脈硬化が進んでいるサインかもしれない。
「加えて日々の活動量が少ない、塩気の多いものや飲酒を好む、野菜はほとんど食べないといった生活習慣なら、加齢に伴ってますます血管は硬くなっているでしょう」
実は、血管が硬くなっていることを知る手がかりが、もうひとつある。
あなたは昔と比べて、体が硬くなっていないだろうか。
家光教授らが行った研究で2009年、「体が硬い人は動脈硬化度が高い」という事実が明らかになっているのだ(※1 Kenta. Y et al. Poor trunk flexibility is associated with arterial stiffening. Am J Physiol Heart Circ Physiol.)。
この研究には若年、中年、高齢者の計526人が参加し、対象者は座位体前屈テストによって「柔軟性が低いグループ」と「柔軟性が高いグループ」に分けられた。そしてそれぞれ動脈硬化度を測定すると、中年と高齢者では「柔軟性の低いグループ」のほうが「動脈硬化度が高い」という結果であった。
家光教授が研究を行った背景を説明する。
「加齢に伴って臓器は衰え、体力が低下し、動脈硬化も進行していきます。体力には持久力、筋力以外にも柔軟性があり、柔軟性の低下は筋・腱・靭帯などが硬くなることが原因です。この硬さには、正常組織が線維成分に置き換わって硬くなる『線維化』や『糖化』(血中の余ったブドウ糖が体の重要な構成因子であるタンパク質にくっつく現象)が関係していると考えられますが、それは血管も同様なのです。そのため、並列的にこれらの症状が生じているのなら、柔軟性の低下と動脈硬化にも関連性があるのではないかと思い、研究を行いました」
結果は、仮説通りのドンピシャだった。
特に次のような人は黄信号という。
・前屈時、昔は床に手がついたのに全くつかなくなってしまった
・体が硬くて靴ひもを結ぶのがしんどい
「若い方でも現在体が硬いようであれば、将来血管が硬くなりやすい可能性があるということも論文では報告されています」と家光教授が補足する。
一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が分泌される
さて、体が硬いと血管が硬い。それでは逆転の見方もできるのではないか? つまり、「ストレッチで体を柔らかくしていけば、血管も柔らかくなるのではないか?」と家光教授は考えた。
そして50~70代の人を対象に1日2回、5種目のストレッチを試したという。すると、「4週間で動脈硬化度が軽減する」というデータが得られたのだ(※2 Yuya. H et al. Four weeks of lower-limb static stretching reduces regional arterial stiffness in middle-aged and older women. Phys Act Nutr.)。この結果を「血管年齢」に換算してみると、
研究結果を目にして、家光教授も「ストレッチでも、血管が柔らかくなるんだと衝撃でした」と話す。
「同時に、このエビデンスによって、動脈硬化予防としてストレッチを自信をもって勧められると思いました。研究者として健康法を人に勧めるには、根拠がなければなりませんから。またストレッチであれば多忙な人でも隙間時間に自宅でできますし、天気に関係なく屋内で行うことが可能です」
なぜストレッチによって血管が柔らかくなるのだろうか。
「簡単にいうと、ストレッチをすることで血液の循環(血流)が良くなり、一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が分泌されます。NOには血管内の筋肉をゆるませ、しなやかにする作用があるのです」
しかし、ストレッチを1回行っただけでは、その効果は1時間ももたない。実際に研究でも、ストレッチを行った直後から徐々に動脈血管の硬化度が下がっていくものの、ストレッチ後30分を境に、また元の硬化度に戻る傾向にある。
「一回行っただけでは一時的な柔らかさしか獲得できませんが、毎日続けていくと血管そのものが柔らかさを“覚えてくれる”のです。具体的にはNOが分泌されやすくなり、それに対する血管を拡張させる反応も良くなっていきます」
筋トレを例にするとわかりやすいかもしれない。一回だけでは筋肉量が増えないが、筋トレを数カ月間続ければ、筋肉がついてきたなと感じられる。だから「継続」が大切なのだ。
