0歳児ママへの徹底調査で「わかったこと」

最初は、自分だけの悩みかな……と思っていたという。

「写真や動画を撮りまくり、親と共有したいと考えるのは特殊なユーザーかもしれない。最初は誰にもいわなかったんですけど」

半年ほどクラウドサービスを使って、みんな同じ不満がないか尋ねてみようと思いついた。社内のエンジニア、デザイナー、総合職などにヒアリングした。

「子どもがいる人もいれば、いない人もいました。アプリを開発したらどうだろうと話したら、すごくいいんじゃないかと言われました」

社内の反応は好意的だったが、確信までには至らない。社外へ出た。

「0歳児のママさんたちが集まるところへ出かけ、こういうアプリがあったらどうですか? ……みたいなことを聞いてまわったんです」

小さな集まりでのヒアリングからはじまり、だんだん規模が拡大した。0歳児のママやパパを対象に、写真や動画をどれくらい撮っているか、どうやって共有しているか、不便を感じていないかといった大規模アンケートを実施した。結果は明快だった。

「共有ツールはかなりバラけていました。LINEで送ってる人もいれば、クラウド系のサービスを使っている人もいる。少なくともデファクト(標準)らしいものはないとわかりました」

みんな写真や映像の管理とか共有で困っている。しかし決定的なサービスは存在しない。

「意外とみんな困ってるとわかり、これは! と思いました。いいサービスができるんじゃないかと」

“みんなの困りごと”だとわかり、「これは!」と思った
撮影=遠藤素子
“みんなの困りごと”だとわかり、「これは!」と思った

「試作版」が思わぬ不評を買ったワケ

自分のイライラから出発した問いは、データによって「みんなの困りごと」へと変わった。笠原氏は開発に踏み切る。だが、試作した最初のアプリは、ユーザーテストで思わぬ不評を買うことになる。

笠原氏が最初に試みたのは、子どもが生まれた日から写真を並べ、人生を丸ごと残せるアルバム――というコンセプトのアプリ化だった。操作画面も誕生した日から並べていくように設計した。

「子どもが生まれた日の写真動画から、共有するかどうかを選択するUI(ユーザー・インターフェース)をつくりました。ところが、けっこう不評で……」

0歳児のママやパパ20組に2週間使ってもらったところ、操作の負担が大きく、そもそも使いはじめてもらえないという重大な問題が浮き彫りになった。

「他のメッセンジャー・アプリとの差別化を意識しすぎてしまって。“子どもの人生を丸ごと残せる”というコンセプトにこだわりすぎたと思います」

0歳児であっても、誕生した日が1年近く前のこともある。何カ月も前の写真、動画にさかのぼって「共有しますか?」「共有しませんか?」と選んでいくのは苦痛だというのだ。ユーザーが求めたのは、もっとシンプルな使い方だった。

「過去からたどるのではなく、“いま”をやらせてくれって話なんです。撮影したばかりの写真を誰かと共有したいというのが希望でした」