上場企業の会長自ら「公園でチラシ配り」

笠原氏はUIを根本から見直した。撮った写真がタイル状に並び、共有するものを選ぶだけ。シンプルな構造に振り切った。

「2回目のユーザーテストでは非常に好評で、よろこんで使ってもらえました。手応えがあったので、2014年12月にテスト公開しました」

コンセプトより、ユーザーが正しかった。自分のこだわりよりも、“いま”が大切だという希望を優先する――ユーザー目線の判断が「みてね」の方向性を決定づけた。

翌2015年4月、正式リリースを迎えた。笠原氏はリリース前に、自ら東京・駒沢オリンピック公園へ出かけ、0歳児の親たちにチラシを配った。上場企業の会長(当時)が率先してプロモーションする。マーケットの感触を直接つかむためだった。

さらにリリース後も、笠原氏は自らカスタマーサポートを担当した。使い方などメールでの問い合わせに答える。当時はエンジニアやデザイナー以外のスタッフがいなかったため、ユーザーから届く声を直接受け取りつづけた。現場に立ち、声を聞く。リリース後の細やかな改善を支えた。

笠原氏自ら駒沢公園でチラシを配って、0歳児の親に取材したという
撮影=遠藤素子
笠原氏自ら駒沢公園でチラシを配って、0歳児の親に取材したという

笠原氏は、さらに踏み込んだ設計へと向かう。多くのSNSが当たり前のように実装している「いいね」ボタンをあえて入れなかったのである。

要望があっても、「いいね」ボタンを却下した

「みてね」には、SNSでは当たり前の「いいね」ボタンがない。ユーザーから最も多く要望される機能だが、笠原氏は採用しなかった。理由は二つある。

「すごく言われます。でも、単純なハートマークの『いいね』はやらないほうがいいと思っていて」

一つ目は、祖父母の使い方だ。孫の写真に「いいね」を押さないという選択肢はほぼない。笠原氏が子どもの写真を捨てられなかったのと同じだ。

「おばあちゃん、おじいちゃんは結局すべての写真と動画に『いいね』を押さなきゃ、となる。義務感から全部に『いいね』してしまうことを避けたかったのです」

二つ目は、コメントが減ること。「いいね」で済ませて、感想を送らないといったことが起こる。

「かわいいとか、おかしいとか、簡単なコメントでも読むとうれしいものです。素直な感想が『いいね』で消化されちゃうというか、だんだんボタンを押すだけで片づけられてしまいそうで」

代わりに採用したのが「みたよ履歴」だ。アプリを開くと自動で更新され、誰がいつ見にきてくれたかを表示してくれる。

「自分はしばらくアップロードしてないけど、おばあちゃんたちは昨日も一昨日も見にきたんだってなると、早くアップロードしないとまずいんじゃないか……みたいな気にもなりますし(笑)」

SNSでは当たり前の「いいね」がないことで、むしろ投稿の熱量は上がる。見てくれたという気配が、投稿者を自然に動かす。“往来感”こそが、笠原氏が「みてね」に込めた設計思想の一つだ。

じつはmixiの「足あと」機能が受け継がれている
画像提供=MIXI
じつはmixiの「足あと」機能が受け継がれている