「奴隷(人間)は不要になるか?」

そして、問いの構造が、決定的に変わった。

アリストテレスの問いは「奴隷は不要になるか」だった。現代の問いは「人間は不要になるか」だ。

2400年で、問いの射程が拡大した。古代ギリシャでは、奴隷は「言葉を持つ道具」と定義されていた。彼らが不要になるという問いは、ある意味で「特定の階層の解放」の問いだった。しかし21世紀、私たちが問うているのは「人間そのものが不要になるか」である。社会階層を越え、人類全体が同じ問いの前に立っている。

そして、アリストテレスは――答えを知らなかった。問いを知っていた。彼は答えを出さなかった。答えは2400年後の私たちが出す問いだったわけだ。

アリストテレスのイラスト
画像=iStock.com/Nastasic
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いまは「テレコム段階」にいる

ヒューマノイドの技術段階は、3つに分かれる。この3段階を理解することが、現代の問いを読み解く鍵である。

第1段階:ラジコン。人間が遠隔から、ロボットに1つずつ指示する。「前進」「腕を上げる」「掴め」――知能は人間側に100%ある。ロボットはただの動く道具だ。これは、産業革命以来の「人間が機械を操作する」関係の延長である。汽車の機関士、自動車の運転手、産業ロボットのオペレーター――彼らはすべて、この段階の人間である。

第2段階:テレコム。人間とロボットが、身体的に同期する。VRゴーグルをつけた人間が手を伸ばすと、ロボットが手を伸ばす。人間が体を傾けると、ロボットが体を傾ける。動きが、リアルタイムで転写される。知能は依然として人間側にあるが、身体は半ば共有されている。ここで初めて、人間と機械の関係が、「操作する/される」から「共に動く」へと変質する。

第3段階:エンドツーエンド。ロボットが自律的に動作する。視覚情報を受け取り、自ら判断し、自ら行動する。人間の介入なしに、目的を達成する。ここで初めて、アリストテレスの「杼が自ら織る」が成就する。知能と身体の両方が、人間の手を離れる。

そして、私がこの目で見た現場は――いまテレコム段階にいる。エンドツーエンドへの移行が、世界中で進行している。

問うべきは、テレコムからエンドツーエンドへの移行で、何が起きるかである。表面的には、人間が機械を操作する関係から、機械が自律する関係へと進むだけに見える。しかし、その移行の中で、人間の身体と技能と意識が、根本的に変容する。