「誰かが言っていた」がゆがめる社会の空気

近年では生成AIを用いて大量に口コミを作成する動きもあり、真偽を見極めることがますます困難になっている。

日本でも、こうした状況を受けて消費者庁がステルスマーケティングを景品表示法の対象に位置づけ、2023年から規制を開始した。すなわち「広告であることを隠して宣伝する行為」は法的に不当表示とみなされるのである。それほどまでに、口コミを装った情報が私たちの判断や購買行動に強い影響を与えているという現実がある。

さらに、日常会話の中で交わされる「誰かが言っていた」という言葉にも注意が必要だろう。

「近所で空き巣が増えているらしい」「あの学校は成績が急に落ちているらしい」といった話題は、発信者自身も「本当かどうかは分からないけれど」と軽く口にしていることが少なくない。けれども耳にした側は「どうやら本当らしい」と受け取り、次の人に伝えてしまう。

こうして根拠のない情報が地域社会の中で確かな事実のように広がっていくのである。フェイク情報はインターネットだけの問題ではないのだ。

フェイク情報は大きなニュースや社会問題のなかだけに存在するのではなく、私たちの日常のすぐそばに潜んでいる。そして「ちょっとした誤り」が積み重なると、私たちの行動、選択、社会の空気感を大きくゆがめていくのである。

選挙を揺るがす大量のフェイク情報

選挙のたびに、SNS上では大量のフェイク情報や真偽不明情報が流れる。2025年の参議院選挙では、その傾向がこれまで以上に顕著になった。

新聞協会や各種メディア企業、そしてファクトチェック団体が一斉に動き、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)の特設サイトには次々と検証記事が並んだ。もちろん検証対象にならないフェイク情報も数多く流通しているはずであり、私たちの身の回りに大量の虚偽情報が渦巻いていることは想像に難くない。

そこには、現代のフェイク情報がどのように生まれ、拡散していくのかという構造が生々しく凝縮されていた。

典型的なのは「切り抜き動画」による印象操作である。

たとえば党首討論で、石破茂首相(当時)がアナウンサーを恫喝したかのように見せる映像が拡散された。しかし実際には、CM中の音声をつなぎ合わせた編集によるものであり、元の発言の文脈はまったく違っていた。テレビ局の公式YouTubeにノーカット映像が公開されていたため、一次情報を確認すれば虚偽だと気づけるが、多くの人はそこまで調べずに信じてしまったのである。

また、「小泉進次郎氏がシートベルトをせず“箱乗り”していた」とされる動画も注目を集めた。これは2024年の衆院選の映像であり、選挙期間中の候補者は法律でシートベルト着用が免除されている。それにもかかわらず、あたかも違法行為をしているかのように見せかけた事例であった。

小泉進次郎氏
自民党・小泉進次郎氏(2025年)(写真=防衛省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

過去の映像を「いま起きたこと」のように見せる手口は繰り返し使われているが、Googleレンズや逆画像検索などを使えば撮影時期を確認できる場合もある。