「もの盗られ妄想」の真意とは

「もの盗られ妄想」も、物を置いた場所を忘れるという記憶の障害と関連して生じることが多いものです。

ある77歳のアルツハイマー型認知症の女性は、財布や芝居のチケットなど、身の回りのものがなくなるたびに、「同居している次女が盗った」と息子や別居する長女に訴えるようになりました。さらにもの忘れがひどくなると、息子の嫁を犯人扱いすることも増えました。

妄想が出現した当初、家族は「盗むはずがない」と説得して一緒に捜すことはしたけど、大切なものが見つからなくなったときの本人の困惑や焦燥を受け止めることをしませんでした。

診療の場では、「あなたは軽率に人を疑うような人ではない」と私の考えを伝え、記憶力の低下については触れずに、話を聞きました。

体調がすぐれないときや、デイケアでほかの利用者と口論したときなどストレスがかかったときに「盗まれた」と訴えることはあるものの、その数は著しく減少していきました。

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写真=iStock.com/andrei_r
※写真はイメージです

大切なことは、本人も周りも、「疑ってしまう心」を客観視することです。

「誰かが盗んだ」と繰り返し訴えたのは、もしかしたら大切なものがなくなって困っていたのではなく、「大切なものを失くして困っている自分」のことを、心配してくれる人がいなかったことが問題だったのかもしれません。

そうした想いに共感してもらったとき、妄想が続いていても、互いに許容できるようになるのかもしれません。

「100%認知症になる人」はいません。
暴言、暴力、徘徊の真意は、「わかってもらえない」ことへの抗いです。
認知症であることを許せたら、収まる症状も多い。
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