患者を暴力的にする病気以外の要素

アルツハイマー型認知症という疾患は、人を暴力的・攻撃的にするものではありません。暴言、暴力、徘徊をおこさない人のほうが、割合として多いのです。数百人の外来患者さんを見ていても、そういった症状が問題になる方は圧倒的に少ないです。

しかし、その人が置かれた状況によって、あるいは周囲との関係によって、暴力的・攻撃的になることはあり得ます。追い込まれて、本人がどうしようもない中で出てきていることが多いように思います。

心の苦悩、痛みが発露しているといいましょうか。

本人が一番言われたくないことを、誰かが言ってしまったのではないでしょうか。周りから頭ごなしに言われたりすることがなかった人生なのに、「認知症扱い」をされたのではないでしょうか。

こんなケースがありました。

いきなり施設に押し込められた母親が、「出ていく。ここは私の場所じゃない」と言って、暴れて、徘徊が始まった。娘さんは、「何も説得しないまま、半ばだまして施設に入れてしまった。それは暴れるだろう。不安だし、本人が一番つらかったと思う。『認知症の人が何もわからないわけじゃない』ということが、今ならすごくわかる」と涙ながらに語っていました。

帰宅願望に寄り添ってくれる人など、誰もいません。そんなことをしたら、また暴れて、「帰る、帰る」と言うにきまっています。

でも「いたくないけど、我慢をしてここにいる」という気持ちをわかってもらえたのなら、「もうちょっと辛抱しようか」となるかもしれません。

わかってもらえないから、暴れてしまうことも多いと思います。

「100%認知症になる人」はいない

精神病理学では、人の心が100%うつ病になってしまうことはなく、人の心が100%統合失調症になってしまうこともないといいます。

心の中には、病気ではない「健康な心の部分」も必ず存在するとされます。

アルツハイマー型認知症などの認知症疾患の場合も、暴言に至った経緯や興奮して家族と口論になったことを覚えていて、本人の口から後悔の念が語られることがあります。

認知症でも、自己の状態や周囲の状況を客観的に捉えることのできる「精神の存在」を、認めてもよいのではないでしょうか。

「客観的に状況を把握している本人の意識が存在する」と考えれば、どんなにひどい症状をもつ認知症の人とも、「コミュニケーションをとろう」と試みることができるでしょう。