国防相経験者への「死刑判決」が意味するもの
世界最強を演じる指導者が、北京を離れられない理由はいくつかある。最大のものは、習近平氏が権力の拠り所である人民解放軍を完全に掌握できていないことだ。
象徴的なのが、2026年5月7日に下された元国防相2人への判決である。中国の軍事法院は、元国防相の魏鳳和氏(収賄罪)と、後任の李尚福氏(収賄罪および贈賄罪)に対し、執行猶予2年付きの死刑判決を言い渡した。政治的権利の永久剥奪、全財産の没収を伴う。魏鳳和は核ミサイル部隊を統括するロケット軍の初代司令官として巨大な軍予算を握り、李尚福は装備発展部長として兵器調達の利権を掌握した人物だ。いずれも習近平氏自身がみずから抜擢した腹心中の腹心である。
執行猶予つき死刑は、2年後に無期懲役へ減刑されるのが通例。だが、今回は減刑後の仮釈放が一切認められない条件がついた。実質的な終身刑である。
注目すべきは、彼らの汚職が国防相時代ではなく、司令官や装備発展部長として軍の中枢で権限を握っていた時代に起きたとされる点だ。軍の兵器調達と核戦力の核心部分が長年にわたって腐敗していた事実を政権が暴いたのである。
そして「皇帝と処刑人」だけが残った
ここ数年の粛清がもたらした軍中枢の空洞化は、現代中国で前例がない。
軍の最高意思決定機関である中央軍事委員会(CMC)は、本来7人体制で運営される。しかし2023年以降、李尚福氏、何衛東氏、苗華氏の3人が失脚。さらに2026年1月には、CMC副主席であり習近平氏の幼馴染といわれる張又侠氏、そして劉振立氏の2人が粛清の波にのまれた。「習近平の“毛沢東化”が止まらない…中国最後の“ブレーキ役”粛清で、これから起きる『対台湾』3つのシナリオ」で解説した通りだ。
現在のCMCメンバーは、習近平氏と張昇民のわずか2名。張昇民は軍の規律検査担当トップ、すなわち「処刑人役」だ。プロの作戦指揮官が一人残らず消え去り、最高指導部が「皇帝と懲罰機関だけ」になっている。実際の戦争を指揮するには心もとない異常な空洞状態に陥っている。
腐敗はさらに深い層に及ぶ。ロケット軍では、ミサイル燃料が闇市場へ流出し、代わりに水が注入されていたという話もあるのだから驚く。国家の核抑止力を支えるべき部隊が内部から腐食していた。
中国産兵器の脆弱さも露呈した。ベネズエラで米軍がマドゥロ大統領を拘束した際、配備されていた中国製の最新鋭防空レーダーは米軍の動きを一切検知できなかったと報じられた。
いまや中国は、台湾侵攻に不可欠なリソースをいくつか失っている。米国のベネズエラ・イランへの軍事行動により、原油調達ルートの一部が遮断された。台湾への大がかりな侵攻作戦は当面遠のいたと見られている。
しかし予断は許されない。窮地に立つ独裁者ほど、自分の失政から目をそらすために制御を失う危険性がある。国内問題は山積みだ。


