子どもの世話にはなりたくない――。でも、先立つものがないと、ホームヘルパーも頼めない。介護資金を用意するベストの方法を考えよう。

募る「寝たきり」不安! 「介護保険」と「貯蓄」どちらが得か?

65際以上で手助けなどが必要になった期間
図を拡大
65際以上で手助けなどが必要になった期間

「自分と同じ60代に近いスタッフがいるホームを選ぶことが大切だ。彼らなら同じ世代の人間の気持ちを察して、痒いところに手の届くサービスを行ってくれるからだ」

介護付き有料老人ホームの経営者から聞いた話である。

人間は年老いていくと、だんだん体の自由がきかなくなってくるもの。炊事、洗濯、掃除など普段の身の回りのことができなくなったら、誰かの手助けを必要とする。そのとき思い浮かぶのが、「できるだけ子どもの負担にはなりたくない」ということ。だからこそ、何百万、何千万円という身銭をなげうってまで、有料老人ホームへの入居を希望する人がいるのだろう。

しかし、それだけ巨額のお金をポンと払える人がどれだけいるのか。退職金で2000万円もらったとしても、まだ残っている住宅ローンの返済に充てたり、将来の生活資金として残しておかなくてはならない人が大半を占めるはずだ。でも公的介護保険だけでは、何となく心許ない。そこで、「準備をしておこう」という気になる。

そんな“焦り”に上手くつけ込んでいるのが、民間の終身介護保険である。50代の現役時代にセールスマンから「お互い子どもの足枷にはなりたくないですよね」と痛いところを突かれ、深く考えずに加入した人も結構多いのではないだろうか。しかし、この終身介護保険は、加入者にとって決して“優しい保険”ではないのだ。

払込保険料と給付金総額がバランスする条件は5年強もの介護期間
図を拡大
払込保険料と給付金総額がバランスする条件は5年強もの介護期間

図にある「死亡給付金付き」のタイプを見てほしい。要介護になったら介護一時金が60万円、そして毎年介護年金が60万円給付される。また、死亡給付金は300万円だが、受け取った一時金や年金があると、その分が満額の300万円から引かれる。

そこで50歳で加入し、75歳で要介護状態になり、3年後に死亡した場合を考えてみたい。70歳までに払い終えるので、払込保険料の総額は「1万5840円×12カ月×20年=380万1600円」。それに対して受け取る給付金は、一時金の60万円に介護年金が3年分で180万円、死亡給付金が「300万-60万-180万=60万円」だから、総額300万円ということになる。つまり、80万1600円ほど掛け捨てとなるのだ。

もちろん介護期間が長いほど給付金の総額は増える。5年で再計算すると、「一時金60万+介護年金300万=360万円(死亡給付金は0円)」になる。つまり払込保険料と給付金総額がバランスする損益分岐点は5年強なのだ。でも、ここで考えておくべきことは、実際の介護期間がそれだけ長期にわたるかどうかということだ。

実のところ、公正な目で要介護の期間を調べたデータはなかなか見当たらない。それに近いものとして考えられるものが、図の「国民生活基礎調査」に基づいた、手助けなどが必要な期間に関するデータである。これを見てもわかるように、一番多いのは「1年~3年未満」の29.6%なのだ。5年未満で見たら全体のほぼ7割を占める。残りの3割弱の長期介護に備える保険といえよう。

図の「掛け捨てタイプ」も見てほしい。これは死亡給付金が一切出ず、要介護になった段階で一時金が15万円、そして死亡するまで毎年72万円ずつ給付されるもの。先ほどと同じ条件で見ていくと、払込保険料の総額は220万3200円、一方の給付金の総額は231万円で、わずか10万6800円ほどプラスになる。死亡給付金付きタイプよりも割安感があるが、保険料を終身払い続ける必要がある。そのため、要介護になる年齢がもっと遅くなると損益分岐点はずっと長期になる。こちらは早く要介護になるほど有利な保険といえよう。

どうしても不安が先に立つのだろう。介護保険に総額で500万円も払い込む計算になる人も意外と多くいる。終身介護保険の歴史が浅いため事例は多くないのだが、ここまで払うとコストに見合った給付金が得られることはほぼなくなるだろう。

これだけまとまったお金を介護保険に回す余裕資金があるなら、他の金融商品で運用をしたほうがずっといい。公的な介護保険で足りない分は、そうした蓄えを取り崩して充てていくという考えも十分に成り立つはずだ。

(構成=伊藤博之)