事業計画書なしの「行き当たりばったり」

全国の分娩を取り扱う病院・診療所の総数は、1996年の3991施設から2023年には1766施設へと、半数以下に減少した。もともと人口が少ない地域にとって、産婦人科ゼロ地域になることは将来的に地域存続の死活問題となりうる。若いカップルが定住する選択肢から外れるからだ。

ファミール産院の産科は千葉県内に8カ所、東京都江戸川区に1カ所、そして有田市にある。グループ全体で助産師、看護師、事務職など約470人のスタッフが勤務し、2025年は計4282件の出産を引き受けた。

千葉県の8施設を見ると、館山市、君津市、千葉市(2)、市川市、習志野市、船橋市、流山市。配置は広範におよぶ。まるでアメーバのように面展開してきた開院を支える運営システムはどのように編み出されたのか。杉本代表はこう答えた。

「産科医療は、『幸せなお産』を探求するサービス業だと私は考えています。このことを探求した結果、たまたま、今のような運営業態に行き着きました。計画的に進めてきたように受け取られるかもしれませんが、私たちは事業計画書を立てません。ほぼ行き当たりばったりです」

食事も清掃も外注せず、無痛分娩を完備

「幸せなお産」とは、「ごはん」「クリンネス」「無痛分娩」の3要素を指す。

各施設の調理室でつくったできたての食事を提供する。清掃業務は外注せず法人で職員を雇用し、クリンネスのレベル管理を徹底する。医師には無痛分娩の麻酔注射の技術を取得してもらう。

ファミール産院えどがわでは、2025年秋に東京都が無痛分娩の費用を補助すると発表してから出産件数が1.5倍に伸びた。少し前まで無痛分娩の選択にはためらいがあったものだったが、もはや抵抗感は薄らぎ、産院選びの重要なポイントとなりつつあるということだ。

そして地域で一番信頼されるクリニックになるために、時流に適応しながら、分相応の経営を心がけることだと杉本代表は言う。

その経営観はたとえば産後の入院室で垣間見ることができる。相部屋だけでなく、個室や家族が宿泊できる部屋もあるが、民間産婦人科病院のトレンドだったホテルライクな内装ではなく、若い女性の一人暮らしの部屋のようなカジュアルなインテリアでコーディネートしてある。

ファミール産院ふなばしの個室
撮影=プレジデントオンライン編集部
ファミール産院ふなばしの個室

出産年齢の中心となる10代から30代の女性にとってくつろぐことのできる空間を、過剰に投資せずに(分相応)に実現していることになる。

だが、なんといっても特徴は各産院で共通のフォーマットで運営している点だ。どのようにして「幸せなお産」の質を保っているのか。