円の取引の安全性はまったく変わっていない
では有事の際に、ドルと円との関係はどうなるのでしょう?
これまで「世界的有事の際は米国への影響も不可避で、米国が利下げをするので日米金利差が縮小して円高になる」といったことが言われてきました。
これは湾岸戦争やリーマンショックのように、米国への影響が日本への影響よりずっと大きい、という状況であれば理解できるところであり、こうした状況では「有事のドル買い」は起こらないと考えられます。
「有事の円買い」に関しては、世界有事の際はリスクオフになって海外への投資を手控えるので、日本から海外への投資も手控えられて外貨買いが減り、円高になる、という側面もあるかもしれません。
1つデータを紹介すると、図表9は日本から海外への直接投資の額(新規実行額)を示したものですが、リーマンショックの後、2008年後半から2010年にかけてかなり減少したことを示しています。
折れ線グラフは、すでに海外に行った直接投資の日本への引き揚げ額(回収額)を示したものですが、こちらはリーマンショック後に大きな変化はありません。
それでは、今も「円は安全通貨」と言えるのでしょうか?
コロナ禍の場合や、ロシアのウクライナ侵攻の際は円高への動きは見られませんでした。為替市場において「円は安全通貨」という言葉を聞くことも稀になり、むしろ「円の信認の低下」という言葉を聞くことが多くなりました。
しかし、円の取引の安全性はまったく変わりません。先ほど示した「世界各国政府が保有する外貨準備の保有通貨別シェア」の表でも分かるように、各国の外貨準備に占める円のシェアは近年むしろ増えています。
円への信認は、すなわち日本経済・財政への信認であり、これをいかに強化するかが今後の我々の大きな検討課題となるでしょう。



