円安が貿易赤字を増やしている3つの背景
この理由をどう考えれば良いでしょうか?
理論的には、円安になれば、①輸入については円建て輸入物価が上がるので輸入数量が減る、②輸出に関しては現地価格を下げられるので輸出数量が増える、現地価格を下げない場合は円建て輸出額が増える、という経路で貿易黒字が増えると考えられます。
しかし現実には、日本は円安の下で貿易赤字になっています。なぜでしょう?
ここでは3つのことが指摘できると思われます。
1つは、輸出と輸入の円建て比率の差です。財務省が公表した2025年上半期のデータでは、日本からの輸出の円建て比率は36.5%なのに対し、日本への輸入の円建て比率は25.3%と低くなっています。
要するに、輸入の方が円レートの変動の影響が大きいのです。
特に、中東からの輸入はほぼ全てがドル建て(97.1%)であり、ドル高は資源の輸入価格上昇に直結することになります。
こうした貿易取引の際に価格の基準として用いられる通貨は「インボイス通貨」と呼ばれます。
2つ目は、数量への影響です。輸入に関しては、エネルギーが典型例ですが、国産品で代替できないものが極めて多い、したがって円建て輸入価格が上がっても輸入数量は減らない(円建て輸入額は増える)、という点も指摘できるかと思います。
他方で、円安になっても輸出数量が増えにくいという状況もあります。日本の輸出企業は、素材などの多くを輸入に依存し、付加価値をつけて製品化し輸出する場合が多いので、輸入物価が上がったら輸出物価も引き上げざるを得ない場合が多くなります(輸出物価を輸入物価で割った数字を「交易条件」と言い、交易条件の維持は日本経済にとって重要です)。
しかし、近年、輸出品は、他の新興国等との関係で常に競争にさらされ、現地価格を上げるのは困難です。
現地価格が一定の場合、円安は円建ての輸出額を増やすので、輸入価格の上昇による収益への影響をある程度吸収できることになりますが、輸出品の価格引き上げ圧力がかかる中で「円安により現地価格を下げる」ことは実際には難しい、したがって輸出数量が増えるとは限らない、という状況があると考えられます。
3つ目は、日本企業の海外進出です。為替リスクを避けるため、また、国ごとのニーズの違いに対応するため、「市場のあるところで生産を行う(現地生産増)」という方針の企業が増え、現地生産比率が高くなったことから、輸出数量が伸びにくくなってきた、ということが挙げられます。
「海外投資のリターン」が経常収支黒字増に
これを説明したのが図表3です。
国際協力銀行のデータを基にしており、海外生産比率は2002年度の26.0%から2018年度には36.8%にまで上昇しました。
近年は海外生産比率の伸びはやや鈍化し、2024年度は36.1%の水準です。
現地生産増という構造的な状況変化があるのであれば、円安が貿易黒字増に直結するというのは、さらに言いにくくなっているように思われます。
しかし、ここでもこうした構造変化は、日本経済にとって前向きなチャンスの面もあるはずです。
たとえば、現地のニーズに合った製品を低コストで現地で作り、増加した現地での収益は、海外への投資からのリターン(「第一次所得収支」:今や唯一の日本の国際収支黒字要因です)を増やし、経常収支黒字を増やします。
日本の経常収支黒字は近年更に増えています。貿易収支が黒字になりにくくなった分、この「海外投資からのリターン」が経常収支黒字を増やしているのです。(図表4)
この増加した黒字を、日本企業の生産性向上・競争力強化のための投資に回すことができれば、日本の成長の基盤が強化されるはずです。


