好調な都市もあるが

ボストン・ビジネス・ジャーナルは3月、FIFA自身がアメリカ、カナダ、メキシコの開催都市で予約していた数万室をキャンセルしたと報じた。

他にも、全米ホテル宿泊協会(AHLA)がオーナーや運営事業者を対象に行った調査では、アメリカの開催都市にあるホテルの経営者・運営会社のうち80%が、予約状況は「当初予測を下回っている」と答えた。カンザスシティで同様の回答をした者は85%~90%と他都市と比べて高く、同地では需要が「通常年の6月、7月を下回っている」という。

「多くの回答者は、開催都市ではW杯を『何も起こらないイベント』と表現した……FIFAによる客室放出の遅れと、海外ファンの旅行需要の弱さが大きな懸念となっている」

一方で、より好調な都市もある。ジョージア州ホテル宿泊協会の会長クリス・ハードマンは本誌に対し、アトランタはW杯を前に「全米の開催都市の中でも(予約ペースは)好調」だとしたうえで、今後数日から数週間で「さらに好調になるだろう」と見込んでいる。

しかし、ニューヨーク市ホテル協会の会長兼CEOであるビジェイ・ダンダパニは本誌に対し、W杯に関連する需要は、現時点で期待を大きく下回っていると述べた。ホテル側は大会期間中に外国人旅行者が120万人増えると予想していたが、ダンダパニによれば、ニューヨークのホテル予約は「前年比で最大10%増」にとどまり、同市のホテルのほぼ半数は「これまでのところW杯による予約増は見られない」という。

「5月半ばにかけて直前の駆け込みがある可能性はある。それでも、以前予測されていた水準には届かないだろう」

そして、ニューヨーク市のホテル業界では、W杯で期待していた宿泊収入を1億ドル以上失う可能性があると予測した。

需要の弱さの背景には何が?

W杯ほど世界的な求心力を持つイベントであっても、旅行者の熱意は渡航先が安定していて安全だと感じられるかに左右される。

全米旅行協会のジェフ・フリーマン会長兼CEOは「来訪者は試合を観るためだけに訪米するのではない。アメリカを体験するために来るのだ」と指摘する。

各種調査や業界関係者への取材を通じて、現在の需要の鈍さの背景にドル高や航空運賃の上昇、トランプ政権下のアメリカ訪問に対する不安があることが浮かび上がった。

5月上旬、120を超える団体が参加予定者に警告を発し、アメリカへ渡航する際には注意を払うよう促した。

ハードマンは「ビザ手続きへの懸念、旅行費用の上昇、交通機関への追加料金、そして一部の開催市場で議論されている増税は、いずれも不確実性の一因となっている。慎重に対処しなければインバウンドに影響を及ぼしかねない」と懸念を示している。

ダンダパニも「連邦政府のビザに対する苛烈な対応」を大きな抑止要因として挙げた。

また、AHLAの調査では、ホテルのオーナーや運営事業者の70%が、ビザの障壁と「より広範な地政学的懸念」が「国際需要を大きく抑え込んでいる」と答えた。

AHLAの広報担当者は本誌に対し、「先行指標は、まだチャンスが残されていることを示している」と語った。「スタジアムは満員になると見込んでいる。しかし、それを実現するには、ただ、その機会を最大限に生かすには、アメリカとFIFAが、海外からの旅行者をきちんと歓迎し、恙無く過ごせる環境を整えなければならない」

FIFAはこの一大イベントを過大に売り込んだ?

移民取り締まりや国境で起こり得る困難をめぐる懸念を和らげようとして、インファンティーノは2025年、「アメリカは世界中から訪れる人々を歓迎する」と強調した。

しかし、安全面での保証だけが観戦の障壁になっているわけではない。チケット販売が伸び悩んでいるのは、たとえ集客力の低い試合であっても、極めて高額なチケット価格が一部のファンに観戦を諦めさせているようだ。

英紙『ガーディアン』が2025年12月に行った分析によると、最安値のチケットでさえ、2006~2022年までの平均と比べて約6倍だ。このような状況を受けてサッカーファンの非営利会員団体であるフットボール・サポーターズ・ヨーロッパは3月、FIFAが「独占的地位を乱用し、チケット価格を過剰に高価にしている」と欧州委員会に申し立てた。

最安値のチケットでさえ2022年のカタール大会の数倍高くなっている一方、FIFAの「ダイナミックプライシング」モデルでは、需要に応じて価格が大幅に上昇し得る。

FIFA会長は、アメリカでは「大学の試合」を観るにも数百ドルの価格がつくことがあるとして、チケットが高額になることを正当化。再販業者は常に市場価格に従うものだと述べた。

しかし、FIFAの理屈は、トランプには響かなかったようだ。

先週のニューヨーク・ポストのインタビューで、トランプは6月12日に行われるアメリカ対パラグアイ戦のチケットが1000ドルにまで跳ね上がったことに対してコメントを求められ、次のように回答した。

「正直に言うと、私なら払わない」

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
【関連記事】
「年末年始は海外旅行」が30%増…エルメスでもディオールでもない、富裕層が空港の待ち時間でお金を落とす"場所"
日本一YouTuberからついに漏れ出た「カネのにおい」…「聖人」ヒカキンが苦しむ「好感度の上げすぎ」が招いた反動
帝国ホテルでも椿山荘でもない…「ミシュランガイド」が太鼓判を押した意外すぎる日本のホテルの名前【2025年11月BEST】
新大阪駅から15分なのに巨大廃墟がそびえる…「消えた終着駅」が映し出す昭和のニュータウンの栄枯盛衰【2025年8月BEST】
なぜ伝説の動物写真家はヒグマに命を奪われたのか…星野道夫さんの悲劇を呼んだ「餌付けされたクマ」の怖ろしさ