「左翼に鉄槌を下す」という期待
参政党の中での「日本人ファースト」の意味は「反グローバリズム」である。
神谷が編者の『参政党Q&Aブック』の中で、「参政党のメンバーが言う『あの勢力』とは何でしょうか」の設問への答えは「ユダヤ系の国際金融資本を中心とする複数の組織の総称です。彼らは欧米社会を実質的に支配して数百年前から日本を標的にしています」となっている。
掲げる「反グローバリズム」はこの考えが源流で、そこから「日本人ファースト」へと繋がっていく。「実体のない支配層」への嫌悪で成り立っている。
要するに「世界を一つにしようとしている闇の勢力と団結して戦うぞ」みたいなことだが、一般の方々にはうまい具合に、そんな陰謀論めいた意味があることまでは届かなかったようだ。
SNS上の拡散力の高さの裏には、のちに「ロシア製bot」と呼ばれる海外からの不正な介入があったことが取り沙汰されている。そうした不自然な情報拡散はそのまま、いわゆる「ネトウヨ」たちを必要以上に引きつける結果になった。
「差別をやめろ」と抗議の声を強める「左翼的な勢力」にも鉄槌を下してくれるのではないかという期待を、参政党は抱かせた。そこでは陰謀論めいた言説は二の次だった。
参院選を巡る全てのことがうまく回った。初めて参政党への追い風が、いや神風が吹いたと言っても決して大げさではなかった。
「政府に足りないのは財源ではなく愛情」
7月3日の公示日。銀座三越前でさや候補の演説があった。都議選後の注目もあって、ものすごい数の報道陣が集まっていた。チラシを配る党スタッフの上着に「八紘一宇」などと書かれており、おそらく参政党取材に慣れていないカメラマンや記者たちから「こういう人たちなの……」と驚きの声が漏れていた。
演説の応援には、さやの経済政策の師匠にあたる経済評論家の三橋貴明、そして田母神が訪れていて、重厚感のある布陣になっていた。さやの「政府に足りないのは財源ではなく愛情なのではないでしょうか!」の言葉は、多くの報道陣がずっこけながら聴いたに違いない。
続く神谷の演説では、さやへの投票呼びかけもそこそこに「男女共同参画は間違っていた」「高齢女性は子どもが産めない」との言葉が発せられた。現地の私にも聞こえてはいたが「また言ってるよ」くらいに思ったせいか、深刻には考えていなかった。
演説後に銀座三越横の狭い歩道で、メディアによる神谷の囲み取材があった。最初のうちは愛想よく応じていた神谷だったが、すぐに表情がこわばった。それは、記者から「先ほどの高齢女性というのは何歳ぐらいを指しているのか」と質問が飛んだ時だ。
私は「あっ」と息を飲んだ。参政党の話に慣れすぎていた自分に気付いたのだ。神谷同様に「やべえことを言った」という感覚が完全に欠如していた。これは率直に怖いと思った。そして、後からよく考えてみれば「男女共同参画は間違っていた」というのも、とんでもない暴言である。
参政党がこうした旧態依然の家庭観や家族観を強調してきたことは、一般的には「なんだこいつら」のはずだが、私はすっかり「参政党なんだからこれぐらいのことは言うだろ」と受け入れてしまっていたのだ。感覚が麻痺していた。

