「迷ったら、やめる」
当時のぼくは、小児がんの細胞をシャーレ(プラスチックの皿)の中で培養し、定期的に遺伝子を回収し、遺伝子の働きの強さを観察していた。英語論文を読んで、まず再現実験から始めたのである。
ところが、論文に書かれているような遺伝子の変化は確認できなかった。焦って同じ実験を繰り返し、すべて失敗に終わった。これは本実験の前段階の予備実験というものだったのだけど、その予備実験でぼくは準備を怠っていた。ちゃんとしたステップを踏むべきだったのだけども、ぼくはそれを端折った。
6カ月間、何の成果も出ないというのは、かなりつらい。高い授業料となったが、準備をすることの重要性を身にしみて知った。
だから「まず、始めて」はいけない。どれだけ、始めずに準備をするかが重要である。十分な準備が終了すれば、それは「半分成功」なのである。中山先生はこういうことを言いたかったのだとぼくは解釈している。
人生はチャレンジの連続である。ぼくもまだまだチャレンジする。60歳でいったん定年を迎えた人も、これからさらにチャレンジするだろう。そのときに、いかに「始めない」かが勝負である。これを肝に銘じてほしい。そして「始めない」ためには、あらかじめ事前に十分に時間を取っておくことが大事だ。直前に考え始めるのでは遅過ぎる。
始めるか、始めないか、迷ったら? かんたんである。「迷ったら、やめる」。これがぼくの人生の鉄則である。
「まず、行動」してはいけない。動く前にしっかりと止まることを強く勧めたい。人生の残り時間が少ないのだから、失敗はダメ。必ず成功させよう。そういう思いで新しいことにチャレンジしようではないか。
大学病院で働く最大の楽しさ
仕事の楽しさと「達成感」はかなり一致すると思う。日々どんなにしんどくても、最終的に見返りが得られれば、つまり何かを達成することができればそれまでの苦労が報われるし、仕事をやってきてよかったと心から思うことができる。
大学病院で働いていたときの最大の達成感は、やはり大きな手術をしたときにあった。生後間もない赤ちゃんの胸を開くのは、赤ちゃんの体に大きな負担をかけることになる。そこで内視鏡手術である。千葉大小児外科は食道閉鎖に対して内視鏡手術を導入し、それに成功している。
内視鏡下で食道閉鎖の手術をやり遂げた瞬間、執刀医は達成感を味わっただろう。こうしたやりがいが大学病院で働く最大の楽しさだ。
では、開業医になるとそうした充実感は味わえないか。ぼくは開業して最初の頃は、そういう達成感は味わえないと思い込んでいた。でも、よく考えてみるとそうではない。

