誰しも若いときには、客先を訪問しても「自分には売りになるものが何もない」とはがゆく感じるものだ。とくに新人のうちはそうだ。それも当然。知識や技術、専門性などあらゆる面において未熟なのだから仕方がない。

しかし、だからといって「自分に営業は無理ではないか」と悲観する必要はまったくない。逆に、できもしないことを「できます」と誇張したり、知ったかぶりをしたりすることのほうが危険である。顧客のほうが商品や業界の知識に詳しいこともあるので、虚勢や見栄は見破られてしまう。

では、何を売りものにすればいいのだろうか。

上司や会社である。上司の実績や強み、会社の理念や伝統をおおいに活用させてもらうのだ。私も20代のころは、「上司のこと」を徹底的に売ったものだ。

当然のことながら、新人のころは、顧客を説得するだけの実績もなければ、知識やスキルをもち合わせていない。

だが、新人でもアポをとることくらいはできる。

「今度私の上司を連れていくので、ぜひ会ってください」

と、顧客に頭を下げるだけでいい。

そこで、私は徹底して、アポをとることに注力した。

そうやって顧客をつかまえたら、次は上司に頭を下げる。

「顧客訪問に一緒にいって、営業トークをお願いできますか」

上司をお客さまの元に連れていくことに成功すればしめたものだ。実績やノウハウが豊富な上司の話なら、顧客も耳を傾けてくれる。

これは私にとっては、営業のやり方を学ぶ絶好の機会にもなった。

上司のトークをすべて録音させてもらい、会社に戻って繰り返し聞いた。上司が話した内容をメモしながら、「なるほどこういう場面でこういう話し方をすると説得力があるな」と勉強の材料にしたのだ。

さらに営業に関する本を読み、上司のやり方を体系的に理解するようにした。こうして、上司から盗んだワザを自分の武器にしていったのである。