土産購入を拒んだ末路
パンデミックで鳴りを潜めたゼロドルツアーだが、近年では再び盛り返している。タイの英字オンライン紙、ネイション・タイランドは2024年、中国系業者がタイ人名義人で旅行会社を登記し、より悪質な「市場破壊ツアー」を行っていると報じた。
タイ旅行業協会(ATTA)のシッサディワッチャー・チーワラッタナポーン会長は、太刀打ちできないほどの低価格で客を引き込むこうしたツアーにより、タイの観光市場がかき乱されていると警鐘を鳴らす。協会の警告を受けて一部業者は撤退したが、根絶にはほど遠い。
タイ以外でも、観光客が意に反したショッピングを強制される事例は少なくない。2015年には香港・紅磡(ホンハム)の宝飾店で、購入を拒否した同行者をかばった黒龍江省出身の53歳男性が暴行を受け、命を落とした。サウスチャイナ・モーニングポストが報じた。
廃屋に群がる「名義貸し企業」
違法ツアーを支えているのが、周到に用意された犯罪の手口だ。
業を煮やしたタイ経済犯罪取締局(ECSD)がバンコク近郊サムットプラーカーン県で大規模な一斉摘発に踏み切ったと、ネイション・タイランドが伝えている。逮捕者は中国人21名、タイ人51名の計72名に及んだ。
捜査の標的は、外国人の事業活動を隠ぺいするためにノミニー(名義貸し)を行う企業群だった。
摘発の端緒となったのは、ある中国人男性の逮捕だ。「リー」と呼ばれるこの男は、インターポール(国際刑事警察機構)から指名手配されていた。中国人投資家から総額140億バーツ(約602億円)をだまし取り、タイへ逃亡した容疑がある。タイでは会計事務所を通じてノミニー会社を設立。タイのビザやIDカードを取得できると信じ込ませ、他の中国国籍の人物を欺いていた。
当局はリーが利用した会計事務所を手がかりに捜査を進め、ネットワークの全容をつかんだ。その会計事務所自体が、ノミニー会社だったという。「イアン」および「ヴィーナス」の通称で知られる中国人女性が、中国国内からメッセージアプリのウィーチャット(WeChat)を通じて遠隔で指揮していた。現地では、タイ人家族が同事務所と複数のノミニー企業の取締役に名義を貸していたことが明るみに出た。
こうしたノミニー企業を通じ、タイ国民のみ就労可能な業種で堂々と事業を営んでいた。摘発であぶり出された企業は15社。いずれもサムットプラーカーン県バンサオトン地区の同一住所に事業所を登記していた。警察が現地に赴くと、そこには何年も使われた形跡のない廃屋同然の店舗兼住宅が並ぶだけだったという。

