銀行ですら金の流れが分からない
成田の白タクは、氷山の一角にすぎない。中国系決済アプリを通じて、各国の法規制の網をすり抜ける「影の経済圏」が広がりつつある。
その影響は大きい。中国の英字経済メディア、財新グローバルは東南アジアと日本において、中国人による海外決済の50%超を、ウィーチャットペイとアリペイのQRコード決済が占めていると伝える。中国で全国展開する民間銀行の一種、株式制商業銀行のクレジットカード部門に勤める行員の証言だという。受け入れ店舗はアジア以外でも、アメリカや欧州にまで広がりつつある。
この巨大な決済圏の基盤となっているのが、「クローズドループ型」と呼ばれる決済モデルだ。ウィーチャットペイとアリペイは、中国国内で従来型の銀行インフラに依存することなく、急速に普及した。決済の受付から実際の資金移動まで自社のシステム内で処理し、取引情報を外部の銀行ネットワークには原則として開示しない。
中国国内での利用に留まれば、キャッシュレス化を加速させる有益な仕組みだ。だが、そのまま海外に持ち出されるとどうなるか。受入国内で発生した取引であっても、取引の発生場所も加盟店名も、銀行側からは確認できない。税の捕捉やマネーロンダリング防止の観点から適正な監視が求められるが、結果としてこれらは困難になる。
タイで催行される「格安ツアー」の実態
すでにデジタル決済の副作用に苛まれている国の事例を見れば、日本でも何らかの対策が求められることは明らかだ。
タイではかねて、中国の決済インフラをめぐる問題が大きく報じられてきた。コロナ期を経て現在も再燃しているが、まずは2018年に香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストが報じた内容を振り返ろう。
記事は「ゼロドルツアー」と呼ばれる、ツアー代金を極端に安く設定して集客し、別のルートで利益を回収する商法を暴いている。タイ現地に登記した代理会社を隠れ蓑に、実態としては中国人オーナーが運営しているという。
収益の大半は中国へ還流させており、現地の関連業者はほとんど利益を得られない。課税逃れの疑いが強く、数百万ドル(約数億円)規模の税収が失われているという。
業者の収益源となっているのが、観光客に半ば強制的に行わせるショッピングだ。参加者は滞在中、特定の店舗での購入を強要される。拒否すればガイドに詰め寄られ、ホテルの部屋の鍵を返してもらえないこともある。英語もタイ語もほとんど話せない彼らにとって、タイ警察に被害を訴えることすら難しいと同紙は指摘する。

