コイとフナでも糞の卵から仔魚が産まれた

机上でいくら思考をめぐらせても、しかし結論は出ない。実験あるのみだ。研究チームは8羽のカモと大量のコイの卵を用意し、1羽につき約500個、都合4000個の卵を食べさせ、後に糞を採取した。次いでフナの卵でも同様の実験を行った。

これほど単純明快な科学実験もそうはあるまい。見るべきポイントはただ一つ、生きた卵が糞から見つかるか否かである。ミステリーの解明に繋がる大きな期待と、徒労に終わる不安とが入り混じる複雑な気持ちで、研究チームは糞の中身をピンセットで選り分け、精査したことだろう。

そして見事、生きたコイの卵を8個、フナの卵を10個、それぞれ糞の中から見出した。水槽に入れて見守ると、一部は菌に侵されて死んだが、残りは正常な胚の発生を続け、やがて孵化してぴちぴちとした仔魚が産まれた。硬い膜を持たず、耐久力の乏しいコイとフナの卵ですら、水鳥に食べられて糞として排出された後、立派に孵り得ることが実証されたのである。

なるほど生存率は恐ろしく低い。4000個中の8〜10個だから、わずか0.2%に過ぎず、1%未満のカダヤシ類のさらに下を行く。

研究例は少ないが世界中で起きている可能性

しかしながら、大事なのは全体の産卵数だ。コイは一度に最大150万個、フナは最大40万個という莫大な卵をぽろぽろと産む。水鳥に食べられたうちの99.8%が消化されて命のともしびが消えたとしても、わずかな残りから元気な仔魚が孵るかもしれない。池から池へと移動する水鳥から、競合相手の少ない新天地に糞まみれの卵が落とされ、そこから奇跡の復活劇が起きるかもしれない。

渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』(中公新書)
渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』(中公新書)

そうなればコイとフナの作戦勝ちだ。己の遺伝子をできるだけ多く後世に残すという、生物としての至上の目的を首尾よく達成したのだから。

「鳥の糞からの復活劇」はまだ研究例が少なく不明な点が多いものの、コイとフナのみならずいろいろな魚で、また世界中で起きている可能性がある。住宅地の溜池や、山奥の孤立した池や、雨季にだけ形成される水たまりにすら魚が泳ぐという生態学のミステリーは、本説によって説明がつく。

それにしても、0.2%の可能性にかけて100万の卵を産むとは、なんて大胆な、しかし理に適った作戦だろう。魚という生物は私たち以上に数字に精通している気がしなくもない。

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