「水鳥の体に魚卵が付着して運ばれる説」
もちろん私もそう信じていた。最近になって一連の論文を読む前までは。
巷間言われる「水鳥の体に魚卵が付着して運ばれる説」に着目し、どれほどの科学的根拠があるのかを文献で網羅的に調べた研究がある。
すると驚くべし、水鳥やその他の野生動物の体に魚卵が付着することを報告した論文は、ただの一篇もなかった。
むろん報告がないから間違いとは言えない。だが興味深いことに、ミジンコなどの微小な甲殻類の卵が他の動物の体に付着し、運搬されることを示した論文は多数見つかった。ミジンコで報告があるのに、研究の一層盛んな魚でないというのは、一つの真実を衝いているように思われる。すなわち魚卵が水鳥の体に付着するという、いかにもありそうな現象は、実際には自然界で起きていない可能性が高い。
繰り返しになるが、日本でブラックバス(オオクチバス)が多くの湖沼に放流されたように、人の手によって魚の生息場所が広げられた例は多い。それに現在はぽつんと孤立する池でも、過去には川と連結していた場合がある。だがしかし、その2つの可能性を除外できる池や沼にすら、魚は疑いなく住み着いている。
いったいどうやって?
鳥の糞からの復活劇
話がいちどきに進展したのは、ブラジルのとある干潟においてであった。
植物の種子や昆虫の卵が鳥に食べられ、糞として排出された後、立派に発芽したり、孵化したりすることがある。移動能力の乏しい植物や昆虫が世代をまたいで遠くへ分散するのに、鳥の糞が一役買っている。
この現象を詳しく調べようと、研究チームがハクチョウの糞を野外で採取し、中身を精査したところ、意外なものを見つけた。魚卵である。それは先に述べた乾燥に強いカダヤシ類の卵で、驚いたことにまだ生きていた。
もしかしたらカダヤシ類の卵は、水鳥の体に付着するのではなく、水鳥に食べられ、糞として別の場所に落とされた後、不死鳥のごとく蘇るのかもしれない。そう考えた研究チームは、次に実験を行った。650個ものカダヤシ類の卵を用意し、飼育されているハクチョウに餌として与え、ほどなく排出された糞を精査した。
卵の大方は跡形もなく消化されたり、潰れて死んでいたりした。しかし――研究チームは会心の笑みを浮かべたに違いない――生きた丸い卵が5個だけ発見された。水槽に移して観察を続けると、3個で胚の発生が進み、そのうち1個は見事孵化して仔魚が産まれた。驚くべし、鳥に食べられて消化器官を通過し、糞として排出された魚卵から次の命が誕生したのだ。

