史実に照らすと“変な展開”である

孤児として育った直美が庶民の結婚観しか知らないのだとしたら、まだ理解できなくもない。だがそれにしても、やっていることが無茶苦茶だ。身分を偽って鹿鳴館のメイドに潜り込み、結婚相手を探す……これ、端的に言って詐欺である。いや、詐欺師と言うのも失礼なくらい、計画性がない。

しかも忘れてはならないのが、明治のこの時期、新聞や書籍が爆発的に増えているということだ。かつ、その内容たるや、大衆が喜ぶプライバシーの暴露やスキャンダルのオンパレード。悪辣さにかけては現代のSNSなど足元にも及ばない。

鹿鳴館前面の景(1883年~1900年頃)
鹿鳴館前面の景(1883年~1900年頃)(写真=Rijksmuseum/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

「士族の娘」を騙って鹿鳴館に潜入した孤児が、海軍中尉に求婚された……などという話がバレた日には、翌週には新聞に名前が躍り、翌月には「毒婦‼ 大家直美」の見出しで本が出版されることになる。あることないことを面白おかしく盛った、読み物仕立てで。明治の出版界、そういう商売が大得意なのだ。