「マンションを買って自立させたい」

子どもが部屋に閉じこもるようになり、父親は私の講演会に参加したそうです。講演の中で、「可能であれば、親が子のためにマンションを購入して、早めに別居するのもよい」との話を聞いたのを思い出して、具体的に検討してみようと、私のもとに相談に来たのです。父親は開口一番、こう言いました。

「先生の講演を聞いて感銘を受けました。退職金が入ったので(退職金を含む資産は3400万円)、その資金で息子にマンションを購入して、自立させたいと思います」

私が話した趣旨は、別居したほうが子は自立しやすいということではありません。別居をきっかけに自立できるケースもありますが、必ずしも自立につながるというわけではありません。

ただ、別居にチャレンジするのは悪いことではありません。なぜなら、親との同居がずっと続くと、子の自立のきっかけを逸するだけでなく、別のデメリットもあるからです。

それは、親亡き後にも、庭付きの戸建てや、3~4人向けのファミリー向けマンションといった親所有の広めの自宅に、残された子どもがたった一人で住み続けるパターンが多くなること。そうなると広さがもったいないため、子が早めに一人暮らし用のマンションに移り住み、親亡き後は自宅を売却するなどしたほうが、資産の有効活用になるケースもある、とご紹介しています。

マンションの部屋
写真=iStock.com/kanzilyou
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計画はすぐに暗礁に乗り上げた

父親の言葉を受けて、私はこう後押しをしました。

「一人暮らしをしたからといっても、働くことができなければ自立することはできませんが、それでも今のご自宅に一人で住み続ける事態を避けるには有効な策だと思います」

私の講演を聞いて、実行に移したいとご相談に来てくれたわけですから、私としてはぜひとも力になりたいと協力を申し出ました。そこで、物件のご希望を伺い、物件探しをするとともに、資金シミュレーションの作成を手掛けました。

しかし、この計画は残念ながらすぐに暗礁に乗り上げることになってしまいました。なぜでしょうか。

30歳手前という隼人さんの年齢を考えると、長く住み続けられるように、できれば新築がよい。また、両親の自宅から近いところだと安心。といった条件で物件を探しましたが、昨今は一人暮らし用のワンルームマンションであっても、かなり価格が高騰しています。

そこで、中古でも、少し不便な場所でも……と条件を落としていきましたが、それでも都内だと3000万円前後もしてしまいます。

父親はすでに退職金を受け取っており、ローンを組まずに購入することも可能ですが、それだけの資金を投じると、かなり貯蓄が減ってしまうことになります。

親としては、マンションを購入することでひきこもりの「子どもとの同居」から解放されるものの、隼人さんが一人暮らしを始めると、そのための生活費も出さねばなりません。子どもと親自身の別々の生活費を合わせると、同居より割高になってしまいます。