3月の日米首脳会談において、高市首相は憲法9条を盾に自衛隊の派遣を断ったと報じられている。本当にそうだったのだろうか。東大名誉教授の井上達夫さんは「日本は、9条があっても軍事協力はできる安保法制を自ら作ってしまったため、そのような説明は不可能。メディアは事実を捻じ曲げて報道している」という――。
9条を称える言説が巻き起こった
写真=iStock.com/Nikada
9条を称える言説が巻き起こった(※写真はイメージです)

「9条があってよかった」の大合唱が起こった

まるで「日本は9条のおかげで国際社会の荒波に巻き込まれずにすんでいる」かのように、「9条があってよかった」という9条礼賛言説がまたもや台頭している。

きっかけは、3月19日に訪米した高市首相とトランプ大統領との会談だ。イラン侵攻への日本の協力可能性について高市首相が「伝えた」とされる日本の姿勢と、それに対するトランプの対応について、日本のメディアが事実を歪曲して報道したことがその原因である。

この歪曲報道の典型例は朝日新聞である。同紙は3月23日(月)付の紙面の第一面で、「海峡派遣『憲法9条の制約』――首相、日米会談で伝達」というヘッドラインを大きく掲げた上で、イラン侵攻への日本の協力に関し、高市首相が「自衛隊派遣には憲法9条の制約がある」とトランプ大統領に伝え、「トランプ氏は日本の説明に一定の理解を示した」と報道している。

「9条を盾に断った」はウソ

このような報道に沿って、メディアでは「憲法9条が米国のイラン侵攻軍事協力要請を抑えるカードとして効いている。9条があってよかった」などという9条礼賛言説が台頭している。

SNS上でも、「9条があってよかった」という声が鳴り響いている。あたかも神に代えて9条を救世主として称える「特異なカルト」のミサの合唱のように私には聞こえる。しかし、この9条礼賛言説は、憲法9条問題の核心をなす法理の理解として根本的に誤っている。さらに、高市・トランプ会談の実相と、イラン侵攻に対する日本の軍事協力の実態に関する事実認識としても誤っているか、あるいは意図的に現実を隠蔽するものである。以下、これらの点を明らかにしたい。