「医学部定員増員」では問題は解決しない
大淀病院事件の裁判長は「救急医療は崩壊の危機にあると評されている」「救急や周産期医療の再生を強く期待したい」と発言しており、「医師不足に起因する救急医療体制の構造的問題」として可視化されたわけですが、ここでいう「医師不足」とは「救急に携わる医師や周産期医療に携わる医師不足」ということです。
私がこれまでお話ししてきた「医師不足」も「救急に携わる、外科や周産期医療などの医師不足」です。しかし厚生労働省が行った「医学部定員増員」の政策は、「医師不足」といっても「医師全体の不足」を想定して行ったものです。
この違いから察するに、そもそも問題の捉え方という根本的なことから間違いが生じている(救急医不足が問題なところを医師全体不足に対しての政策を行った)可能性を考えざるを得ません。
繰り返される悲劇
2006年の「新医師確保総合対策」により、医師不足が深刻な9都道府県について各10人の増員が決定され、翌2007年の「緊急医師確保対策」により全都道府県について各5人などの増員が実施されました。
2007年まで7625人に抑えられていた医学部定員は、わずか数年で9000人を超えました。約2割の増加です。
さらに「地域枠」という制度も拡大しました。これは「卒業後、一定期間その地域で働く」という条件で医学部に入学できる枠です。2007年には173人(全体の2%程度)だったのが、2022年には1736人(全体の19%)にまで増えました。
この定員増により、2020年ごろまで医師数は毎年3500~4000人程度増加するようになりました。
しかし、この医学部定員増員という施策に即効性は全くありません。救急医療現場の状態は変わりませんでした。
2007年8月には奈良県橿原市で妊婦死産事件が起こります。
大淀病院事件の1年後、2007年8月29日に奈良県橿原市で妊娠7カ月の38歳女性が体調を崩し、救急隊が9の病院に9回の要請を余儀なくされ、女性は死産しました。この事件は「受け入れなしの悲劇再び」として大きく報道されました。

